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帰る場所4
病室に辿り着き、扉の前で真志喜は立ち止まった。
伸ばした手が小さく震える。
もう助かったとは知っているのに、本当に無事なのかと何処かで恐怖してしまう。
「真志喜さん」
「…っ」
名を呼ばれ我に返る。
振り返った先には、真剣な顔で此方を見つめる榎本がいた。
「大丈夫。大丈夫ですから」
「……」
落ち着かせるようにゆっくりとそう告げる榎本に、真志喜はキュッと唇を噛み、やがて頷いた。
細く息を吐き出し、躊躇する意識を無理やり振り払って扉を開く。
「っ、真志喜」
「……じ、ん」
そこに居た迅は、少し驚いたような顔をして此方を見ていた。
ベッドに横になった状態だが、意識はしっかりしているみたいだ。
どうすればいいのか分からずに立ち尽くす真志喜に、榎本が後ろから声をかける。
「真志喜さん。俺、外で待ってますね」
「え…」
「それじゃ、失礼します。迅さん、お大事に」
すぐにいなくなってしまった榎本に少し慌てる。
気を遣ったのかもしれないが、今は付いていて欲しかった。
「真志喜」
「…っ」
名を呼ばれビクッと体を揺らし、おずおずと顔を向ける。
迅はいつもと変わらない微笑みを浮かべていた。
レンズ越しではない久しぶりの迅の瞳に、自然と体に入っていた力が抜ける。
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