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帰る場所12

朝。 目覚めれば自分は迅の腕の中にいた。 なんだか照れ臭さを感じてコソコソ抜け出そうとしたら、強く抱き寄せられる。 「もう俺にくっ付いてなくていいの?」 「っ、…うるっさい」 昨日のことを揶揄われ、顔が熱くなった。 より一層笑みを深める迅の顔を押し除けて、両腕の抱擁から抜け出す。 きっとこれ、他のみんなからもネタにされるな…。 うんざりしながら、服を着て部屋を出ようとする。 しかし一緒に部屋を出ようとした迅を見て、俺は首を傾げた。 「…おい、お前眼鏡は?」 いつもなら起きて部屋出る時にはかけるはずだが。 そんな俺の問いかけに、迅は「あー…」と前髪をかき上げ、へらりと笑みを浮かべた。 「…うん。なんか、もういいかなって」 「………なんで」 迅と向き合い、そのレンズ越しではない瞳を見つめる。 暫く無言で見つめ合った後、迅は優しく微笑んだ。 「真志喜が、綺麗だって褒めてくれたから」 「…っ」 固まる俺に、迅は真っ直ぐな視線を向けてくる。 なんか、また顔が熱い。 ほんと…、なんでコイツは、いつもいつも…。 「っ、お前さぁ…!ほんと何なんだよ!そういうことサラッと言いやがって…!」 そう叫ぶと、止まらなかった。 後から後から言葉が出てくる。 「いつもヘラヘラ笑ってるし…っ、何するにも強引だし…っ、俺は行きたくねぇのに色んなところ連れてくし…っ、勝手に人の心読みやがるし…っ。そういうとこ全部…!」 「…嫌い?」 静かな迅の問い。 それに俺は、くしゃりと顔を歪めて、答えた。 「……………すきだよ…」 僅かな静寂の後、迅が短く息を吐く。 そして此方に歩み寄ると、その両腕でそっと俺を抱き締めてきた。 「…真志喜、泣いた?」 「泣いてねぇよバカ!ハゲ!」 「だからハゲてないってば」 クスクスと笑い、次には俺の肩に顔を埋めてくる。 そして少し掠れた声で、迅は囁いた。 「俺は泣きそうだよ…」 引き寄せられるように、唇を重ねる。 それだけで、どうしようもない程の幸福感で胸がいっぱいになった。 ──諦めてはいけないよ。 そう言った母さんの声が頭を過ぎる。 …母さん。 俺、諦めないで良かった。 今なら、そう心から思うことができる。 コイツが隣にいれば、きっと──。 Second life (完)

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