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不幸な美少年
顔がいいということは、必ずしも恵まれているということではない。
これは、紛れもない事実である。
天野 虎介 は美少年だ。
色素の薄い髪からのぞく大きな瞳に、小ぶりな鼻と口。透き通るような白い肌は、彼をより一層秀麗な姿にさせる。
彼は《虎》という文字が入った名に似合わず、とても中性的な見た目をしていた。
しかしこれほどまでに整った顔を持っていながら、虎介は決して自身が恵まれていると感じることはなかった。
顔立ちのいい者の人生が必ずしも幸せであるかと問われれば、実際そうではない。
虎介は幼少期、赤の他人である男に誘拐される被害に遭った。
幸い誘拐された三日後に男は逮捕。
虎介はその男の家で発見され特に傷を負わされた様子はなかったが、その部屋からは大量の虎介の写真が見つかったという。
さらに小学三年生の時、担任だった男性教師からわいせつな行為を受けたこともある。
教師は自身の膝に虎介を座らせ身体中を撫で回すなどし、怯えた虎介が親にそのことを話して事件が明らかになった。
その教師は退職。事件については学校中に広まり、残りの小学校生活は大分息苦しいものとなった記憶がある。
中学生になってからも虎介の災難は終わらず、同学年の女子からストーカー被害を受けたり、後輩の男子から言い寄られ襲われかけたこともあった。
年々増えていくこうした被害に頭を抱えたことは一度や二度ではない。
容姿が整っていることは、決してその人の運勢と直結しているわけではないのだ。
初めは単に絡まれやすい体質だと思っていた虎介も、ここまでくると自分が人に好かれる(あまりいい意味ではなく)顔をしているのだと実感していた。といってもこんな目にあっている故、まったく嬉しくはなかったが。
そこで虎介は、中学を卒業すると同時にある決心をした。
高校は父親の都合で静岡から東京に引っ越すことになっている。
なので環境が変わることを期に、自分を変えようと思ったのだ。
要するに“高校デビュー”というやつだ。
といっても髪を染めるとかそういうものではなく、むしろ地味で目立たない人間になりたい。
自分は変わってみせる。
これ以上顔立ちのせいで人生を振り回されるのは御免だ。友人と別れるのは寂しいが、誰も自分を知らない環境に移れる絶好の機会を逃す手はない。
入学式当日の朝。虎介はそう一人意気込んで、家の扉を開け放ったのだった。
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