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幸運なもの14
ゆっくりと意識が覚醒していく。
数度瞬きを繰り返し重たい瞼を開ければ、そこには馴染みのない天井が見えた。
回らない頭でその天井を眺めていたが、やがて眠る前の記憶が朧げに蘇る。
そう。確かここは、柏木さんの部屋だ。
肝心の主は今ここにはいないようで、静まり返った空間を虎介は気怠げな動作で見渡す。
部屋の中はすっかり暗くなっていて、窓の外を見れば星空が見えた。
自分はどれくらい眠ってしまっていたのだろう。
というか柏木さんは何故、こんなことを……。
「あ、起きてるじゃん」
「!」
夜空を眺めていた虎介は、咄嗟に声のした方を向く。
まだ意識がはっきりしていないのか、ドアが開いたのに気付かなかった。
部屋に入ってきた柏木さんは、よっこらせと床にあぐらをかき、僕を見て笑う。
八重歯の見える無邪気な笑みに、僕は顔を硬ばらせる。
本当に、考えの読めない人だ。
「さっきさ、タツさんから電話がきたんだ」
「……タツさんって、あの、この前の……」
「そそ。きっとあの人なんか勘付いたな」
そう言って楽しそうに体をユラユラさせる柏木さん。
彼は何が狙いなのだろう。というか、勘付いたって?
「俺は今、かわいこちゃんを誘拐してるようなもんだろ?シン伝えにか分かんねぇけど、きっとタツさんはそれにもう気付いてる」
そこで彼は立てた親指を自分に向け、ニヤリと笑った。
「で、俺を疑ってる」
まるでそれが狙いとでも言うような態度だ。
疑われて、家に来られて、それでどうするというのだろう。
僕自身、眠ってから特に何かをされた様子はない。
僕を攫った理由って、一体なんだ?
「……何がしたいんですか、柏木さん」
動揺しながらそう静かに尋ねると、彼はその目をスッと細める。
「タツさんが来るなら、絶対シンも来る」
「慎太郎くんも……?」
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