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12. Paradox

「まだ怒ってんの?」 「…怒ってるよ」 進との電話が終わってほどなくして 櫂が来た。 ひょっとしたら今日はもう来ないかも…とも 思っていたけど、性欲に勝てなかったのか…? 「で?どこで誰といたって?」 「だから言っただろ?友達の家で飲んで そのまま寝ちゃっただけだよ」 ソファーの上で膝を抱えて座り、顎を膝の上に 乗せて、隣に座る俺の方は見ようとしない。 「……だから…どういう友達 …?」 「ただの友達」 「 …… 」 「櫂、やきもちなの?」 俺がニヤニヤ笑って冷やかすように聞くと、違う! と即答して首を振る。 「あきれてんの! もし他の奴とやってたら… 俺とあんだけやりまくってて、まだ足りないの かって…俺には他の奴とヤるなみたいな事 言っといて…」 「援交みたいなヤバイことやめろって言ったけど 他の奴とヤるな、とは言ってないよ」 俺の言葉を聞いて、驚いたように櫂が眉を寄せ 俺を見た。 「……それってどういう意味…?」 「…? 言葉どうりの意味だけど?」 「つまり俺が誰と何しようと どうでもいいって事?」 「 ……… 」 「俺ってそんなもんだったんだ…」 「…ゴメン言い方…悪かった」 俺が言い終わる前に櫂が立ち上がった。 「帰る」 「え? ちょっと 待って…」 動揺する俺を置いて、さっさとリビングを出て行く。 俺は慌てて後を追った。 「待て待て、櫂ちゃんと話そう!」 玄関で靴を履こうとする櫂の背中を抱き止める。 「ゴメン、真面目に話すから…」 耳元で優しく言うと櫂の動きが止まった。 「……蒼佑、俺の事…好き?」 櫂の言葉に心臓がトクトク早くなった。 「俺 …は、、好きかも……」 小さな声で、最後は聞き取れないくらい掠れた声で 櫂が俺の事を好きだと言った。 俺は …… 俺は? 心臓の音がうるさい。 俺は教師で、櫂は生徒で…。 最初は手荒いお仕置きのつもりで、途中からなんだか 可愛くて、放っておけなくて。 今はちょっと面倒で…。 「……好きだよ」 俺は半分勢いで言ってしまった。 言わなかったら、櫂はもう俺の腕の中には 2度と帰ってこない、そんな気がしたから。

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