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櫂はその日ずいぶん遅刻して登校した。 午前中最後の授業前にLL室に鍵を渡しに来たので 今来たの?と聞くと無表情にうなずく。 「あれから ちょっと寝てた…」 それだけ言って、さっさと席につき、机の上に 突っ伏した。 ー まだ怒ってる… 俺は何か声をかけようかと迷ったけど、 すぐに他の生徒も来るだろうと思い 何も言わずに、俺は授業の準備をした。 思った通りそれからすぐに他の生徒達も教室に 集まり始め、あっという間に教室はガヤガヤと うるさくなった。 休み時間も、授業中も、会話どころか 目もほとんど合わなかったけれど 今何を言っても無駄だな、と思い 機嫌をとるのも面倒で、下校まで放置した。 家に帰って部屋の様子を見ても、いつもの 自分の部屋だった。 寝室を見ても特に変わった様子は見られず 櫂が寝たとは思えなかった。 ー あいつ…ソファーで寝たのか? ちょっと気にはなったけれど、ちょうど進から 電話がかかってきた事でそんな事はすぐに忘れた。 (仕事お疲れさま) 「おう。そっちもな」 (俺は在宅だったし…だいぶ寝たよ。 もう徹夜は無理だわ、昔は夜通し乱交パーティー しても、翌日普通に仕事できたのに…) 「あら、お下品」 (そうちゃんだって、やってたでしょ) 「どうだったかな~ まぁ夜通し遊んでも 元気だったのは確かだな…」 (……お互い若くないし…もう、ムチャはやめよぅ) 「そうだな」 (でも何かあったらいつでも連絡ちょうだい 真夜中だって飛んでくから) 「何だよそれ」 進が軽い感じで言うから、一緒に笑った。 (辛いこととかあったら、俺のとこで弱音吐いて 俺もそうするから!) 「…… そうだな…頼りにしてるよ」 (あ、ひっかかった、俺の作戦。 飴で釣って結局離れられなくする作戦) 笑いながらそんな事を言う。 「心の声が漏れてるぞ」 (あれ?漏れてた?フフ…) 正直、進の言葉にずいぶん気が楽になった。 進は 自分が何人かの1人でもいいと、暗に 俺を許してくれたのだ。

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