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11. 4
俺が櫂の背中を押して玄関へ向かうと
櫂は身をよじってその手から逃れた。
「ちゃんと話してくれないなら行かない!」
廊下に うずくまる櫂を見て、俺はちょっと
イライラしてきた。
「櫂、ちゃんと話すってば。
ただ今は時間が無いんだ、帰ってからにしよ」
櫂は体育座りのような体勢で壁に背中をくっつけ
膝に顔を埋めて動かない。
俺は密かにため息をついて、櫂のこめかみに
キスをした。
櫂は一瞬だけピクリと動いたけれど、
頑なに顔はあげようとしなかった。
もう1度、今度は両手で頬を挟んで無理やり顔を
上げさせ、ちょっと乱暴なキスをした。
「んっ~…!」
嫌がってあばれる櫂を壁に押さえつけて。
「…ね、今日放課後おいで…」
大人しくなった櫂の頭を撫でる。
まだ不満そうに目をそらしているけど
家にのり込んで来た時の興奮は治まったようだ。
「じゃぁ…行くよ?
一緒に出ると目立つから後からおいで。
鍵忘れるなよ?」
櫂は返事をしなかったけど、鍵を渡すと静かに
それを受け取った。
俺はもう1度櫂の頭を撫でてから、家を出た。
機嫌はすぐには治らないだろうけど、
今日帰って抱いてやれば満足するだろう。
その程度にしか思っていなかった。
子どもだから、ちょっとした事でムキになる。
でも機嫌が直るのも早い。
ただ今日の事は予想外だった。
俺の不貞を疑ってこんなに取り乱す事も
驚いたけれど、そもそも俺が誰と何をしても
気にしていないだろうと思っていた。
セフレの存在も薄々気づいていると思ってたし。
俺も隠すつもりもなかったのに…。
今日の様子を見たら、どうもそんな雰囲気ではない。
進の存在を話しにくくなってしまった。
もう面倒だから、何もなかった事にしよう
多少疑われていても、そう言いきれば
確かめようもない。
気をつけなければいけないのは
これからの事だ。
そもそも櫂は俺との関係をどうするつもりなんだ。
在学中のちょっとした火遊びで終わらせる気なら
あんな風に怒りをぶつけてくるだろうか?
1度、ちゃんと話しておかなければいけない
そんな関係に俺たちはなっているんだろうか?
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