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踏み出す9
「…ありがとう、幸さん」
「え?」
「あなたのおかげでおれは、前に進める」
あなたが手を差し伸べてくれたから。
側にいると言ってくれたから。
おれの名前を、呼んでくれたから。
「ありがとう」
「…千里」
それからおれたちは、静かに唇を重ねた。
その途端、ブワッと心に広がるものがあって、また涙がこぼれ落ちる。
幸さんがおれを抱き寄せて、すーはーと深呼吸した。
そして耳元に口を寄せられ、熱を帯びた声で問われる。
「…いいか。千里…」
「……うん。幸さん、して、ください…」
「…っ」
それから深い口付けを何度も交わした。
そうしているとどんどん体の力が抜けていって、くたりと幸さんにもたれかかってしまったおれを、幸さんが横抱きに持ち上げる。
「わわっ」
「千里は軽いな。心配になる」
「っ、い、言うほど軽くないですよ…!」
おれの反論に楽しそうに笑った幸さんは、そのまま寝室に入り、そっとベッドの上におれを下ろした。
そして触れるだけのキスをして、幸さんがゆっくりとおれを押し倒す。
「ぁ、…んん、ぁ」
首筋に移動してきた唇に、甘い痺れが走った。
こんな感覚は久しぶりで、また涙が滲みそうになる。
「千里…」
「…っ」
耳元で囁かれ、するりと服の中に手を入れられた。
脇腹を撫でる手が熱い。
早々に快感を感じて、おれは何度も幸さんを呼ぶ。
「幸さんっ…幸さん…っ」
「…千里、かわいい」
「ぁあっ」
耳元でそんなことを言われて、堪らず体がピクピクと震えた。
なんだこれ…。
まだ、肌に触れられてるだけなのに…。
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