108 / 108

始まり10

「本当に、よかったんでしょうか…」 「…え?」 唐突にそう呟いた千里は、そのガラス玉のような瞳を揺らす。 「おれが…、おれだけが…。こんなに幸せになっても、よかったんでしょうか…。 おれは、罰せられるべき人間です…。大切な人を不幸にしておいて…、なのにこんな…」 「千里」 「…っ」 名を呼ばれ、千里は弾かれたように顔を上げた。 目の前には幸さんが、優しげな瞳で自分を見つめている。 「千里は今まで、十分辛い思いをして、自分を苦しめてきた。過去に向き合い、必死で頑張ってきたんだ」 そう言って千里の手を握り締めた幸は、ふっと微笑んだ。 「だからもう、幸せになっても、いいんじゃないか?」 「!」 大きく目を見開いた千里は、くしゃりと顔を歪めて泣きそうな表情になる。 しかし次には満面の笑みを浮かべた。 共に歩いて行こう。 今度はもう、道を違えたりしないように。 いつまでも寄り添い、ずっと側にいられるように。 「幸さん、大好きです。おれに幸せをくれて、本当にありがとう」 おれの言葉に、幸さんは面食らったような顔になったが、次には照れたように笑った。 それから引き寄せられるように2人、そっと唇を重ねる。 今までおれは、こんな自分は消し去ってしまいたいと思っていた。 でも今なら、幸さんと一緒なら いつか、ほんの少しでも 自分を好きになれる日がきたらいいなと そう、思えるんだ。 ユキ(完)

ともだちにシェアしよう!