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始まり10
「本当に、よかったんでしょうか…」
「…え?」
唐突にそう呟いた千里は、そのガラス玉のような瞳を揺らす。
「おれが…、おれだけが…。こんなに幸せになっても、よかったんでしょうか…。
おれは、罰せられるべき人間です…。大切な人を不幸にしておいて…、なのにこんな…」
「千里」
「…っ」
名を呼ばれ、千里は弾かれたように顔を上げた。
目の前には幸さんが、優しげな瞳で自分を見つめている。
「千里は今まで、十分辛い思いをして、自分を苦しめてきた。過去に向き合い、必死で頑張ってきたんだ」
そう言って千里の手を握り締めた幸は、ふっと微笑んだ。
「だからもう、幸せになっても、いいんじゃないか?」
「!」
大きく目を見開いた千里は、くしゃりと顔を歪めて泣きそうな表情になる。
しかし次には満面の笑みを浮かべた。
共に歩いて行こう。
今度はもう、道を違えたりしないように。
いつまでも寄り添い、ずっと側にいられるように。
「幸さん、大好きです。おれに幸せをくれて、本当にありがとう」
おれの言葉に、幸さんは面食らったような顔になったが、次には照れたように笑った。
それから引き寄せられるように2人、そっと唇を重ねる。
今までおれは、こんな自分は消し去ってしまいたいと思っていた。
でも今なら、幸さんと一緒なら
いつか、ほんの少しでも
自分を好きになれる日がきたらいいなと
そう、思えるんだ。
ユキ(完)
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