14 / 40

四、宵闇に染まる④

頬を包んでくれている彼に、彼の顔が重なる。 あたたかな唇が離れていく (先生……) 名残惜しく瞼を開けた瞳に映る(あか) 先生の目は燃える蝋燭の灯火の色じゃない。 先生と同じ顔で。 先生と同じ声で。 先生みたいに俺を撫でてくれる。 あなたは…… あんたは…… (………………ゼス、カ) ゼスカが俺に? 俺は夢でも見ているのかな? ここは夢の中? それとも現実? 意識がふわふわする。 この意識の波に乗ったら、先生に会えるかな…… 『行くな!』 脳裏を打ち据える声が、意識を束ねた。 俺を抱きしめる熱は……… 「寒くないか」 起き上がった俺に、上着を羽織らせてくれる。 (そっか……) 俺の服、濡れてビショビショだから。 「脱がせたよ。寝ている間に」 「うん」 頷いた顔を上げる事ができない。 星が落ちてきそうな夜だから。 月のない宵の空に、ギラギラ輝く星の瞬きから目を逸らした。 「ゼスカは……」 唇を風がさらう。 こんな小さな声が届くわけない。 「なに?」 なのに彼はそっと上着を肩に引き上げて、声を返す。 「私が、どうした?」 「ゼスカは、先生じゃないから嫌いだよ」 こんな事、言う筈じゃなかった。 こんな言葉、波が海の向こうへさらってくれればいいのに。 波の音が掻き消してくれればいい。 「そうだね。君に嫌われる事をいっぱいした」 ゼスカの右手が俺の左手を握ってくれている。 ぎゅっと。 俺達は手を繋いでいる。 砂浜に風が木漏れた。 「俺は先生に嫌われる事をした」 俺達はどちらが先に逝ってもいけなかった。 どちらかが、もう一人のどちらかを見送ってはいけなかった。 約束したんだ。 それなのに!

ともだちにシェアしよう!