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一宿一風呂(つむぎ)

翌朝アラームで目を覚まして 洗濯して乾いた洋服に着替えた いつも通りの時間にアラームかけたけど 祈織さんのおうちはおれの家から行くよりバイト先が近いから まだ時間があって 一宿一飯というか 一宿一風呂の恩で 少しおうちの片付けと 昨日洗濯した洗濯物を畳んでしまう所までしておいた 『いおりしゃーん、おれもういくけど』 と、ソファで寝てる祈織さんの事を揺すって控えめに起こす どうしよ、よく寝てるから起こすの悪いかなって思ったけど さすがにお世話になったのにそのまま出て行くのはなって、 一言ぐらい喋りたかった 『いおりしゃーん、』 『んんん、つむ、ぅ、』 と、ようやく祈織さんは 目を擦りながらもぞもぞと動き出す 『んんん、ちゅむがいるぅ、』 つむ、ちゅむ、と祈織さんが手を伸ばしてくるから 近寄るとぎゅう、と首に手を回してくれて すんすんと匂いを嗅いでくる ええ、めっちゃ甘えてきてかわいいんだけど 『祈織さん、?』 『つむう、帰っちゃうの?』 『うん、かえる、バイト行かなきゃ』 『ふーん、』 と、祈織さんはおれのことを離して ソファの枕に顔を埋めた 『えっと、じゃあいくね。本当にありがとね』 『うん、また食いにいく』 『うん、待ってる』 じゃあ、いくねと、 祈織さんに言ってリビングから出ようとしたら 『あー、つむぎ』 と、祈織さんの声がして 振り向くと 祈織さんは起き上がって 目を擦りながらソファから立ち上がる 『玄関まで行く』 『あ、ありがとう』 と、本当に玄関まで無言で送ってくれて 『お前の靴、おもらしで濡れてるからおれの靴履いていっていいよ』 と、シューズボックスを開けてくれる 『えっと、ありがとう。どれ、』 『んー、どれでもいい』 『えっと、でも祈織さんの靴大きいからそのサンダル借りてもいい?』 『こんなんでいいの?』 『うん、』 『いいよ、履いてきな』 『ありがとう。えっと、じゃあ、』 と、言ってまたちょっと寂しくなった いまさら、 もう祈織さんのおうち出ていってるのに 『うん。また遊びにきて』 『うん、ありがとう』 『あとさ、おれつむに聞きたかったことあるんだけど』 と、もう本当に行こうとしてたのに玄関の前に犬のお座り見たいに祈織さんはしゃがんでおれの事を見上げてくる うわ、わざとかな めっちゃかわいいんだけど 『えっと、なに?』 『おれ、今寝起きなんだけどさ』 『うん、』 『寝起きのおれの顔って、ぶす?』 『……んなわけないじゃん!』 くっそかわいいし! 同じ男でも勃つくらいかわいいし! なに、おちょくられてんの もうおれちょっと勃って来ちゃったんだけど! バイト行くまでに収まんのかな、これ 『え、なんでそんな怒んの』 『別に!』 『ふは、つむいきなり怒ってるー』 と、立てた膝の上で腕を組んで そこに顔を埋めながら上目遣いで言ってくるから もう狙ってるとしか思えなくて 童貞(非処女)相手に朝から祈織さんの刺激は強すぎる なんなの、その上目遣いの笑顔 耐えられなくなって 『行ってきます!』 と、勢いよく祈織さんはおうちを飛び出した 勃ってきちゃったどころかフル勃起なんだけど! コンパクトサイズで良かったよ、じゃなきゃ通報されるレベルだよ、これ なんだよ、祈織さん おれのことからかってんのかな ◆◆ バイト先に着く頃にはどうにか半勃ちくらいに収まっていて コンパクトサイズのおれは どうにかごまかせるな、と 『おはようございまーす』 と、更衣室に入って挨拶をすると マスターは既に着替え終わっていた 「おはよう、紬くん。なんかさー、昨日の夜中ここら辺いた?」 『え?』 「紬くんみたいなの、見たんだよね。すぐに細い道の方行っちゃったから声掛けられなかったけど」 『い、いました、』 え、いたけど それ、おもらし直前じゃん、 それマスターに見られてたって 『え、マスター、おれのこと、みたんですか、?』 「うーん、なんか紬くんみたいだなって思ったけどよくは見えなかったから声かけなかった」 『あ、そう、そうなんだ。それだけですか?』 「うん、それだけだよ。今日も頑張ろうね」 『は、はい』 と、マスターはそれ以上なんも言わなくて 変な事も言ってなかったから 多分おもらししたのは見られてない ふぅ、とため息を吐いた おれ結構間一髪じゃん おもらししてんの見られるとか かなりの羞恥ぷれいだし、 着替えはじめた時に ひょこ、とマスターはもう一度更衣室に顔を出した 「あ、そうだ」 『あ、はい』 「その、下半身?接客する前にちょっと落ち着かせてね?あんまり目立たないけど」 『…ずびばぜん、……』 マスターはさらって言ったけど 勃起バレてたことも あんまり目立たない事も 昨日見られていた事も 全てにおいて情けなすぎて もう涙ちょちょぎれていた

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