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個室(社長)

会社が終わって迎えに行く旨を連絡したのに 返信が無い 寝落ちしているのか、 気付いていないのか もしくは、 突然やっぱりやめたくなったのか 女々しくぐるぐると考えながらシバの家に向かい 信号待ちのタイミングで返信がきていないか チェックしながら向かったが 返事が無いままシバの家に到着してしまった 到着したんだからもうぐるぐる考えていても仕方ない インターホンを押すと 急いで風呂入るから上がって待ってて って、おい 寝てたやつか、これ また何日か風呂入ってなかったりしたのかなと思いながら少々拍子抜けをしつつシバの部屋に向かう 入口の鍵はかかってなくて 不用心だと思いながらも中に入ると 玄関に洗って乾かしていると見られるシバの靴より少し小さい靴 あの子供の靴か? 来たりすんのかな、あいつ バスルームの前を通ると シャワーが流れる音がしていて シバが言った通り本当にシャワーを浴びているところだとわかる リビングのドアを開けると 部屋が散らかっていて少しげんなりする そういや田中さん、家の都合で暫くお休みするって言ってたから シバの所にも来ていないのだろう 俺は別のハウスキーパーの人でお願いをしたがシバはもしかしたら別の人と頼んでないのかも知れない リビングに1歩踏み入れた所で ぬちゃ、と何かを踏んで なんだ、と脚をどけると白い塊 なんだよ、と拾い上げると生臭いティッシュ 湿り具合からして新しい… 何してんだよ、ちゃんと捨てろよ、と ため息を吐き ゴミ箱を探してそれを捨てると ゴミ箱の中に赤いティッシュがあることに気付く 「なに、鼻血?」 体調悪いのか? 昔からシバはちょいちょい体調を崩す あんまり身体が強いわけじゃないのに だらしなく服着ないで寝たりとかするから自業自得と言ったらそこまでだが 体調が優れない時とかに鼻血も出したりする 体調悪そうだったら早めに切り上げるか、と考え手を洗い 脱ぎ散らかされている服を適当に集め洗濯カゴにいれておく 汚ねぇ部屋 『ごめん、風呂出た』 と、リビングに戻ってきたシバは 既に外出用の洋服を着ていて 髪もセットされてる 「なに、風呂はいってたんじゃねえの?」 『汗かいたからちょっと流してきただけ』 と、シバが言って理解する さっきの生臭いティッシュといい オナってたのか オナってて俺の連絡も気付かなかったのか 相変わらずというかなんというか 下半身緩めだよな、こいつ 「腹減ってる?」 『へってる』 「じゃあ行くぞ。回らない寿司」 『ざんまい?』 「ちゃんとしたとこ」 『は?じゃあちゃん着替える』 「いいよ、予約の時間もあるし。個室取ってるから」 『…そっか、』 と、玄関に向かう俺に付いて ほぼ手ぶらで家を出ようとするシバ 「スマホは」 『んー、べつにいらね。誰からも連絡来ないし』 「んなわけねえだろ。一応持っとけよ」 『…いらねえのに』 と、言いながらポケットにスマホをつっこみ 鍵をかけ家を出る 「なぁ、お前の部屋、散らかりすぎ」 『みなちゃん、来ないだろ、今』 「あぁ、やっぱりそうか。他の人は?」 『今更みなちゃん意外無理』 「お前人見知りだしな」 『うん』 そんなんで、新しい会社大丈夫かよ と、言おうと思ったが 未練がましいと思われるのも癪だから言わないでおいた 『なあ、えんがわある?』 「あるんじゃねえの?」 『へえ、サーモンも食いてえな』 「あるだろ、それぐらい」 車に乗り込むと シバも助手席に座りシートベルトをつける なんつーか、 かなり久々にあったはずなのに 最後会った時あんな微妙な別れ方したと言うのに 普通すぎる なんだ、こいつ あんなって思ってたのも俺だけだったか? 『なぁあ、』 「なに、」 『なんかさあ』 「うん、」 『久しぶりだな』 「……そうだな」 『おれ、最近人とあんまり話さないから、あ、つむとはたまに話してるけどね』 「……それで?」 『なんか人と話すの久しぶりだからどうやって話せばいいかわかんねえ』 「…ふーん、」 そんな事言われても 俺だって困る 俺とは会ってないのにあの子供とは会ってるのか、とか そんな事ばっかり考えてしまうし 『なぁ、』 「なに、」 『なんか怒ってる?』 「………別に。怒ってねえけど」 『………お前がおれに怒んないでよ』 と、シバは不機嫌に ふん、と窓の外を見つめた 「シバ、お前なんかわがままなんじゃねえの」 『……おれのこと、嫌いになったの?』 「なってたら来ないだろ、今日」 『ふーん、』 「お前は」 『…なに?』 「俺の事。嫌いになったのかって聞いてんの」 『なってたら寿司食いに連れてってって言わない』 「ふーん、」 『……寿司、どんなとこ』 「マグロのご飯がちゃんと赤いとこ」 『赤いとなんなの?』 「こだわってんだよ、ちゃんと」 『………おれ、マグロ食えねえけど』 「………まだ食えねえの」 『うん』 「高い寿司予約しなくてよかったな」 『ざんまいとかびっくらの所で良かったのに』 「お前が回らないところって言ったんだろ」 『………そうだっけ』 「そうだよ、」 と、若干後悔しつつ お店に着き 予約していた奥の個室に案内される 『………めっちゃ高いところじゃん』 「お祝いだろ」 『なんの?』 「は?お前の仕事決まったって自分で言ってたじゃねえか。忘れたの?」 『あー、うん。そうだっけ』 「そうだよ」 『だってお前に会うための口実だから何でも良かったんだもん。まぁ高い寿司ラッキー』 と、シバはおしぼりをころころと転がして丸くする なんだよ、口実って そんなん、俺に会いたかったって言ってるみてえじゃん 俺は車だからノンアルコールだが シバには通常のビールを出してもらい 先に乾杯をした 「就職内定?っていうのか?転職でも」 『さあ?そうじゃん?』 「じゃあ、…シバ、就職内定おめでとう」 と、グラスを軽く当て乾杯をした 『おれ、ちゃんとしたけど?』 と、また、シバは『ちゃんと』という言葉を使った だからなんなんだよ、ちゃんとって ちゃんとした大人はオナニーした後ちゃんとティッシュをゴミ箱に捨てるし 部屋もあんなに散らかさねえし 酒飲んでも寝る前ちゃんとトイレ行くからおねしょしねえし 「……ちゃんとって結局なんなんだ?」 『え?』 「お前よく言うじゃん、『ちゃんと』って」 『ちゃんとは……ちゃんとだろ、』 と、シバもわかってない様子だ なんなんだよ、結局ちゃんとって 『おれは、ちゃんとしたつもりだったのに、』 と、下を向いてしまう なんで俺、こんな余裕ねえこと言って シバこまらせてんだろ、さっきから 「…シバ、」 『あ、寿司きた。食っていい?』 「…あぁ、いっぱい食え」 やったー、とシバは箸を持った シバって、こんなわかりずらかったっけ つか、俺の気持ちとか シバに伝わってねえのかな

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