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「陽向さん、鯵本さんおめでとうございます!」
6月下旬。
沢山の友人に囲まれながら陽向と鯵本の結婚式が行われた。
晴天に恵まれ、外に出てきた新郎新婦の真っ白な衣装は光りが反射して綺麗に輝いている。
「いや、陽向さんももう『鯵本さん』ですよね」
「『鯵本さん』って呼んだらこれからは2人揃って振り向くかもな」
「...じゃあ、陽向さんを名字で呼ぶときは『あじさん』って呼ぶことにしたらどうですか?」
陽向と鯵本の友人たちが楽しそうに談笑している。
「それはだめ。『あじ』は俺の大切な相棒の名前だから」
陽向は手に持ったブーケをじっと見つめながら直ぐにその提案を却下した。
「えー、良いと思ったんですけどねー」
「鯵本以外に『大切な相棒』なんていたら鯵本が嫉妬するぞ?」
友人達は陽向を茶化して遊んでいたが、「皆さんお待ちかねのブーケ・トスのお時間です!」とアナウンスがかかると1番良いポジションに着こうと皆一斉に走っていった。
陽向はそんな彼らの後ろ姿を笑いながら見送ると再びブーケに目を向ける。
「陽向...。あじを切り取ってしまったこと、後悔しているのか?」
鯵本が心配そうに陽向の顔を覗き込む。
「いや、これで良かったんだ。病気にかかっていたから、このままだといずれ...。だから、せめて切り取ったあじをウェディングブーケにして此処へ連れて来たかったんだ」
「...そうか」
「あじ、今までありがとう。俺たちの結婚式、どうだった?あじに見て貰えて俺は本当に嬉しいよ。...これからはあじが選んだ人を幸せにしてあげて」
陽向の目から一粒の涙が青色の花びらに落ちるとその部分が赤く染まった。
その瞬間吹いてきたそよ風に乗って紫陽花の花びらが小さく揺れる。
「それでは花嫁の陽向さん!宜しくお願いします!」
コールがかかると陽向はブーケ・トスに集まった人達に背を向けた。
名残惜しい気持ちを振り切るように思いっきり空高く投げる。
--陽向さん、結婚式とても素敵でした。
どうかいつまでも貴方の幸せが続きますように。
陽向は自分の幸せを願う声が空から聞こえた気がした。
はっ、として振り返り宙を舞う紫陽花を見上げる。
紫陽花の花びらは風も吹いていないのに上下左右にユラユラと大きく靡いていた。
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