26 / 26
第26話
ぼそぼそとした声だった。けれども、しっかりと耳に入ってくる。嘘偽りのないリョウの言葉を受け取った今、自分はどうすればいいのか。圭一郎は唇を噛み、沈思した。
答えはほとんど決まっていた。
しかし、何なのだろう。服の袖をくいっと、摘んで引っぱられるような、胸のうちのこの感覚は。
……リョウを心配しているのだ。
ここで自分がリョウの告白をきっぱりと断れば、彼は今後、どうなっていくのだろう。新たな恋を見つけて幸せになるのだろうか。あてもなく彷徨うことなく、前を向いて進み続けるのだろうか。
圭一郎のために真人間になったと、リョウは言う。しかし、その目的を失ってしまったら、彼はまた以前のろくでもない青年に戻ってしまうのではないか。……自分がそこまで案ずる必要はないのかも知れない。けれども、母親ゆずりのお節介な性格が、どうしても看過できないと叫んでいた。
彼に対する恋愛感情は、一切ない。
しかし、それは現時点の話だ。自分はまだまだリョウについて知らない。だから、彼と話がしたい。彼の好きなもの、嫌いなもの、趣味、休日の過ごし方……そういった他愛のない事柄から少しずつ知っていけば、彼に対する見方に変化があるかも知れない。
……いや、そんなことを考えている時点で実はもう――
圭一郎はゆっくりと口を開いた。
「俺は、お前をそういう目で見れていない」
「……だよね」
そう言われると思ってたよ。寂しい笑みを浮かべるリョウを見て、慌てて言葉を付け足した。
「だから、その」
「……え?」
目を伏せ、ふーっと息を吐く。緊張した心身が少しだけ解れたところで、まっすぐにリョウの目を見た。
「まずはふたりで、食事に行かないか」
リョウの目が丸く見開かれる。何度か瞬いたのち、焦茶色の瞳はキラキラとした海原のように輝き、彼は大きく元気にうなずいた。
その眩さに目を細めながら、圭一郎は口角をゆるやかに上げた。
ともだちにシェアしよう!