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第一章 再会 十一
(僕は……この匂いを覚えている。子供の頃好きだった匂いだ。懐かしい)
貢の目の前には誠がありえないほど近い距離にいて、思わぬ事態に声も出なくなった。
しかしそのつかぬまの嬉しさは自分への懺悔で苦痛に姿を変え、違った形で再び貢に襲い掛かった。
体が再び震えだし、上手く息ができない。
唇は青くなり、ぱくぱくと魚のように酸素を求めて痙攣する。
「こ、今度はどうしたんだ?」
当然目を覚まして事態は収まったかに思えた状況が再び悪化するのを見て誠はうろたえた。
貢が苦しそうにカバンに手を伸ばす。
「どうした? こ、これか?」
片手で傍らに置いてあった貢のカバンを引き寄せた。
中に何か必要な物でもあるのだろう。
自分では上手く空けられない中を誠は必死に開け、中を貢に見せた。
すぐに取り出せるうちポケットから貢が取り出したのはピロケースで誠はすぐにピンときた。
(そうか。なにかしらの発作が起きたんだ)
とにかく震える手でそのピロケースのフタをあけようとする貢を助け、中から目的の薬を取り出した。
彼はそれをつかむようにして口の中に放り込む。
水を持ってくるなどと悠長なことをしている場合でもなく、誠はただ貢がそれを噛み砕きのどを上下させ飲み込むさまを見ているしかなくはがゆい。
しばらくして貢はおちついてきたため、やっと誠は安堵のため息を漏れた。
「はな……して……」
薬がやっと効きはじめた貢の息とともに漏れる声が自分への拒絶だとは。少しだけ切ない気持ちがしたが、今は貢の気持を尊重したほうがいい。
すぐに彼をそっと元の位置に寝かせた。
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