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第七章 抗えないオメガの運命と…… 一
エムルは相変わらず甲斐甲斐しい、みんなにお茶を出してきた。
けれど今の俺はそんな悠長にしている気分ではなかった。
「エムル、どうして俺から逃げたんだ」
「すいません……。なんだか何もかも怖くなってしまったんです」
エムルはアンドロイドだから見た目は変わらないはずなのに、どこかやつれたような一回り小さくなったように見えるほどに縮こまっていた。
「わしもこんなところでいつまでも怯えていても、何も問題は解決しないだろうと言ったんじゃ……」
古藪がひげをいじりながらため息交じりに呟く。
「どういうことなんだ。頼む、俺はそれが知りたくてここまできたんだ。どんな現実でも受け入れるから、本当の事を教えてくれ、もうどこにも行かないでくれ」
俺の真剣な眼差しに、古藪先生もエムルに頷いて見せた。
「ワタシはずっとあなたさまを子供の頃から診させていただいていました。製薬会社へ処方箋を送り、送られてくる薬を毎回。それはあなたの健康を第一に考えるご両親の意思としてワタシは……。それなのに、そのお薬が実はあまりいいものではなかったと聞かされてワタシはショックでショックで……」
「抑制剤と俺の血をアルファに変える物だったんだろ? なんでそんなものをお前を通して俺に両親は飲ませ続けたんだ?」
「エムルから話を聞いた。お前さんが言うように薬は2種類、性欲を抑える抑制剤と血を丸ごと変えるもの。しかし、血を丸ごと変えることができても、それはあくまでも表向きのまやかしでしかなく、結局抑制剤と併用せねばならないのが、いかんせん情けないものじゃったがな」
「……」
「そんな中途半端なある意味倫理的に反したものを作らされて、わしは嫌になって製薬会社を離れたんじゃ……でも、私はそこから逃げてもなお、その薬を作り続ける運命にあった。強制的に作らされてきたんじゃ」
「えっ、それじゃ……」
「ええ、アヤトさん、この血を変える薬は古藪先生が開発したのです」
「何故……?」
「申し訳ない。その当時わしは借金をしておっての……。将来的にはお金に困ってる人間に医療を施すのが夢じゃったのに、自分がこんな風にお金に困るとは……で、そのお金を借りた人間に無理矢理今もなお作らされていた……」
「……」
「あまりにも性欲の強いオメガが生まれてしまったので、その子の将来のためにそれを抑えられる薬と、自分がオメガである自覚をなくさせて欲しいというものじゃった。少しでもオメガがいる環境やそれらを遮断させられるようにってな」
「それって……俺の親かなにかが頼んだのか?」
俺の言葉に古藪は首を振る。
「わしも正直なぜそこまでせねばならぬのかわからなかったんじゃが……ある大学の准教授に頼まれたんじゃ……」
「大学の准教授?」
「その頃はまだ准教授で恐らく今は教授になっていると聞いた。沼間教授と言う者じゃ」
「え……」
俺は全身がぞくりとした。
沼間教授は俺のオメガ隠しを知っていた?
「何故……沼間が……」
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