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第八章 運命のつがい 六
俺の心の叫びにふと誰かが呼びかけた。
『アヤト……俺のアヤト……聞こえるか……』
その声はまるで直接俺の頭の中に響くような感じで、俺がキョロキョロしても、周りの沼間や船員たちには聞こえてないようだ。
俺は自分が温かい何かに包まれているような感覚になった。
(琉……琉なのか……?)
『そうだ……姿形は変わっても、俺は俺だ……』
(琉、ごめんな、お前がそんな風になったのも俺のせいなのだろう?)
『それは違う……』
(え……)
『これが俺の本来の姿だ。思い出した。いや、正確に言えば俺のもう一つの顔とでも言った方がいいか。俺がこんな姿形で失望したか?』
(ううん、そんなことないっ。ただ、琉が苦しんでるんじゃないかって)
『そんなわけあるか……むしろ心地いい……。今まで抑えつけられていたからな……』
(そうなのか……)
『アヤト……こんな俺だが……お前の所に行ってもいいか? この姿の俺が怖くないか? 気持ち悪くはないか?』
(なんで……そんなこと言うんだ?)
『お前は……見た目が変わらない人間、アルファ、ベータ、オメガに関して意識するような繊細な男だろ? だから、姿形が変わった俺を見たら怖がり、嫌がるんじゃないだろうか、嫌われるんじゃないだろうかって、ずっと思っていた……。俺はお前のことが好きだから嫌われたくなかった』
(琉……。)
俺はショックを受けた。自分が誰かを差別していることで、それ以外の人間が琉がずっと苦しんでいたんだ……。
それなのに……。俺は……俺って奴は……。とんでもないことをしていたんだと……。
(ううん、全然。そんなことないっ)
『本当か? 正直に言っていいんだぞ?』
(っ……少しだけ怖いかもしれないけど……)
『ふふ……正直だな』
(琉……今まで本当にごめん、ごめんよ……俺、なんてお前に謝ったらいいんだ……。)
『いいんだ。お前が謝ることじゃない……』
(けれど……俺のせいじゃなかったら、お前どうしてそんな姿に……? お前は一体……)
『沼間がどこまで知っているかわからないが、俺は薬で抑え込まれていた。強すぎるアルファだからだと思っていたが、そうではなく、それ以上の能力、ミュータント化しないようにされていたとは。古藪先生が言うには俺のような存在の人間はごくわずかにいると最近聞いたことがあったそうだ。だが、本物を見るのは初めてだったらしいから、彼は最初俺がそうだとはっきりと判断できなかったようだ。俺も、古藪先生に言われてやっとわかった、自覚出来た……。俺もお前と同じように薬で押さえつけられていたからしばらくそんな自分を忘れていた』
(古藪先生は大丈夫なのか?)
『あぁ、大丈夫だ。エルムの処置が早かった。すぐに傷口も塞がったようだ』
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