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第六章 抗えない苦しみと発情 六

 今日は少し夜風が冷たい。パーカーのフードを被った。時折エアカーが行きかうライトが光るが、それ以外は数メートル置きに外灯があるだけだった。  携帯の地図を頼りに歩くと大きな高速道路が見えた。  その脇に人専用の歩道の案内が見える。  歩道に向かう階段を上がると、思ったより通路内は明るく、ただ、どれくらい歩かなければならないのかと思うほど終わりがない道が続いていた。  道を歩いている途中でふとフロンからメールが入る。 『池さんから連絡が来た。中央都市の外れたところにスラム街っぽいところがあって、噂ではそこの町医者が違法な薬を闇取引してるって噂だよ。念のためそこの医者を訪ねてみたら? 少し神経質な男らしいからもしかしたら警戒心強いかもしれないね。それにスラムは性犯罪も多いらしいし、怖かったら警備用のアンドロイドでもその辺でレンタルして連れて行けば?』  その言葉と共に、その医者がいる場所の案内地図が添付されていた。  ここにはなるべく早く行くつもりだが、その前に宿泊場所を決めないと……。  目立たない地味なホテルがいいと思う。    琉は俺がいなくなったとわかったらどう思うだろうか。  いや、それはフロンがなんとか取り繕ってくれるに違いない。  でもそれを思うと、時折歩道内に吹き抜けてくる風が切ない気持ちを乗せて心をすり抜けていく……。  自分がどこかからっぽになったような心細い気持ちだ。  いつからこんな風な心細さばかり感じるようなひ弱な人間になったのだろう。  競っていたつもりの琉。自分は負けないと思っていた琉のことばかりさっきから思い出しては消えていく……。  俺はなんだか自分の気持ちがわからなくなった。    そうそれは夢見ていた俺からすれば妻になるであろうベータの女性や男性。  運命の赤い糸……。そんなロマンティックな気持ちからはおおよそ離れた現実。  一人でこれからの自分を考なくてはいけない。  あまりにも琉に頼りすぎていた自分に気づいた。    だからこれで良かったんだ……。

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