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第六章 抗えない苦しみと発情 五
俺の言葉にフロンは深くため息をつく。
「そういえば、さっき今日のお礼に薬剤師の池さんに連絡したら、明日沼間とかいうサウスエリアの大学の教授が製薬会社に来るらしいよ」
「……え!」
フロンからその名前を聞いて俺は一瞬息が止まりそうになった。
「たぶん彼はアヤトの事話したんじゃないかな? つがいがどうこうって言ってたからね。もしかして、彼、あんたの相手なの?」
フロンの言葉に俺は首を激しく振った。
「違う。沼間とは、奴と親が勝手に決めただけで、つがいなんかじゃない」
「ふぅん……。でも池さんの話ではその沼間って人、羅姫くんの名前を出したら、すぐにでも行くって話だったよ、あんたの事迎えに行くとかなんとか、池さんも『なんだ、アヤトくんにはつがいになる男性がいたそうじゃないかって、これで苦しさから解放されるよ』って」
「じ、冗談じゃない」
「たぶん、その沼間って人、製薬会社からここにあんたを迎えに来るんでしょうね? どうするの?」
「いや、俺は行かない……そいつが大嫌いなんだ」
「大嫌いな相手がつがい? それはご愁傷様。で? どうする気」
「今すぐにでもここから出なくちゃ……」
「そうだね、それがいい……。でも出ていくなら一人で出て行ってね」
「……!」
「とにかくもう琉を巻き込まないで」
フロンは険しい顔で俺を睨みつけながら、携帯を俺に押し付けた。
うろたえる俺にフロンは冷たい視線を送りながら、ため息をつく。
「全く、どこまでも世話の焼ける奴だね。あんたとの連絡はこれでするから、あんたはどこか適当なホテルにでも宿泊していて。お金がないならある程度貸すから」
「……」
「このまま琉をあんたのわけのわからない、売春婦顔負けな発情期に巻き込んでいいの?!」
「……わかった」
俺はそっと自分の部屋に戻るとベッド脇にサエカにさっきもらった薬のビンを確認する。
改良された薬はあり難いことに効き目があった。
けれど、これは強い薬だし、急場しのぎで作ったものだから、効き目が次第に短くなるそうだ。
発情しそうになったら飲むということは、サエカももうどれくらい俺にこの薬が効くのかがわからないんだと思った。
俺はそのビンに手を伸ばし、中身を確認した。
思った以上にビンの中に薬が入っていて……。
「とにかくしばらくこれでなんとかしながら……逃げなくちゃ……」
俺はすぐに荷物をまとめるとリュックにその薬を入れた。
寝ている琉の横顔を見て、彼としばらく会えないと思うと、何故だかとても切ない気持ちが込み上げてきた。
「……琉。今まで俺お前に凄く甘えてたな。俺を助けてくれたり、庇ってくれたり……本当にありがとう……今度は俺がお前を危ない目に合わせない番だ……」
「何してるの? 琉が起きちゃうじゃん、さっさと出て!」
「あ、あぁ」
小声でフロンにせっつかれて俺は裏口のらせん階段から庭に出た。
「この先の少し重めの裏門、今だけ鍵を開けといたから、そこから出て。真っすぐに行くと中央都市に向かう高速道路が見える。そこの脇に作られてる歩道を歩いて行って、携帯の地図を見れば自分の位置がわかるはずだよ。中央都市まで行けば、割安なホテルが幾つもある、このカード使っていいから」
「……ありがとう」
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