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第10話
ヒュンとか細く鳴いたエリファレットを抱え、ラウは流麗な顔を難しく顰めた。
エリファレットが魘されて鳴き出したのは、ミレイアが帰ってほどなくしてからだった。か細く高い声が、すすり泣くように時折父母を呼ぶ。ハラハラと零れ落ちる涙は、銀の被毛に弾かれて毛布に染みを作る。
たまらなくて呼び起こせば、ぼんやりと焦点の合わない翠がラウを映す。だが意識を底に沈めたままの瞳は、哀しみと恐怖を浮かべたまま涙を流し続ける。
温もりを求めるように、助けを求めるように、体を擦り寄せて来たエリファレットをラウは抱きとめる。
少年のナリをしていても、銀狼としては成体だ。狼の姿である時のエリファレットは、思っているよりも大きい。頭を抱えるように抱き、手触りの良い銀の被毛を撫でる。
「ラウ……お願いです……はやく、僕をころして……」
辿々しく吐き出された言葉は血を吐くようで、ラウは唇を噛み締めた。
ラウはエリファレットが何故殺されたがっているのか、理由を聞いたことがない。知る必要もないと思っていたが、あるいは、エリファレットもその理由を話すことはないのかもしれない。
この子どもが抱えるものは、おそらくもっと深く重い。
直感的に悟り、ラウは思案顔になる。
親を失い、帰る場所をなくした。自暴自棄で『殺されたい』のとは違う。『死にたい』ではなく、『殺されたい』理由があるのだ。
本当に、厄介ごとを抱え込んだ。背に腹は変えられなかったとは言え、安請け合いしすぎたきらいがある。
銀狼の里を見つけ、無理矢理にでも置き去りにしてこればいいだろうと安直に思っていたのだ。銀狼の里があり、場所がわかったとしても、ラウは近い未来にエリファレットに剣を突き付けるのかもしれない。
「出来れば、それはしたくないな……」
ふさふさと手触りの良い銀の被毛を優しく撫でながら、思わず零れ落ちた言葉にラウは気付いていなかった。
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