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課題提出(7) ※
自分でしていた時は一度も手応えを感じられなかったのに、香月の指先は迷うことなくその場所を探し当ててみせた。勝手に声が出てしまう、あの場所だ。痛いかと聞かれて首を振ると、お前がちゃんと自主練してくれていたからだと甘く囁かれて、消えたくなるくらい恥ずかしくなった。
香月の指先がそこを擦りあげる度、声は出た。前回と違うのは、擦られる度に明らかに快感を伴い始めているということだ。声も高くなるし、身体も熱を帯びて、気づけば俺は再び勃起していた。流石に香月も察して、俺に尋ねてきた。
「桐谷...気持ちよくなってきた?」
「はっ、ぁんっ、ん、」
「ん。よくできました」
やがて香月は慎重に指を引き抜くと、俺の両膝を広げてその間に自らの腰を落ち着かせた。今まで指先が入っていた入口に擦り付けられているのは指ではなく、香月のそれだ。
「...痛かったら、言って」
俺は頷いたが、もう多少痛くても構わないと思っていた。
香月が腰を進めた。狭い入口をこじ開けるようにして、入ってきた。指先とは比べ物にならないくらいの質量に、呼吸を忘れる。だが思い出したように深呼吸をして、香月を迎え入れた。
「っはぁ...っ」
「...平気?」
「ん、い、から、...ナカ、挿れろ」
「コラ。あんま...煽んなよ」
香月は苦笑しつつ、更に腰を沈めた。
鈍い痛みに耐えた。耐えることができた。痛覚と共に必ず快感が伴っていたからだ。内壁を擦られる度に快感が生み出されて、ますます期待感が膨らんでいく。
「はー...きっつ、処女みてえ」
ある意味俺は処女だよ、と頭の中では思ったが、口にする余裕はなかった。
香月は、やはり優しい男だった。
痛くないように最大限に気を遣って、優しくしてくれているのだと思う。だがかえってもどかしい程に焦らされてしまっていた俺は、香月に強請った。
「こお、づき、...もっと、奥、」
「何、欲しいの...?」
「...もう、ほしい、」
「っ......わかったよ」
香月は、熱っぽくそうとだけ言うと、一度に腰を押し進めた。
奥まで入り切ったのがわかった。香月は、一つ大きく吐息を吐き出して、呟いた。
「あー...桐谷すげー、全部、はいったわ」
お前は童貞か、と思わず突っ込みたくなるような感想に笑いそうになった。
「...笑うなよ」
どうやら笑いが漏れていたらしい。俺は悪い、と一言だけ謝った。香月はまた吐息をついて、俺の耳元に口を寄せた。
「でもさ桐谷、聞いて.....今すげー嬉しい...俺だけかな...」
自嘲するような響きを含めませながら呟かれた一言に、俺はいたたまれなくなった。
俺はお前のようにストレートに気持ちを伝えられる人間ではない。一瞬でもこの狼野郎にときめいてしまったなんて信じられないし、可愛いと思ってしまった自分にも驚いた。
だが俺は今、確かに香月と同じように嬉しいという感情を抱いていて、こんなにも満たされた気持ちになっているのだ。
思えば、寂しかったと言えたのも、気持ちいいと口にできたのも、涙を流せたのも、香月が全て引き出してくれたからだ。
俺は確かに気持ちを伝えるのは苦手だ。しかしそれは少し前までの話で、今の俺はこれまでとは違う。
伝えられる。香月には、ちゃんと伝えたい。そう思った。
俺は巻き付けていた両腕で香月の身体を引き寄せて、その首筋に鼻先を押し付けた。
「...俺も、うれ、し.......」
香月が息を飲むのが分かった。言ってしまった。恥ずかしい。顔が熱い。何か言って欲しいのに、香月は何も言わない。何か言えよ、黙ってんなよ、頼むから-----。
「.....優 ...っ」
俺は耳を疑った。
香月が発したのは、他の誰でもない、俺の名前だったからだ。
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