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明けない夜はない

有と付き合い出して、もう5、6年経つのかとぼんやり思う。あれからは、小さな喧嘩やすれ違いはあるにはあるが危機的状況などとは無縁でここまで順調に続いている。2人とも地元に就職が決まったので、大学卒業を機に予算の都合で古くて狭めではあるが1LDKのマンションを借りて2人で暮らし始めた。 あの頃の自分は、こんな未来を想像もしていなかっただろう。 「かなり拗らしまくった片想いだったからな。俺、根暗でムッツリだしさ。全然モテないし。男だし。お前が好きになってくれるなんて全く思ってもなかったし。なんか、1人で考えて内に内に行ってたかなとは思う」 「ヒロは分かってないよな」 「何が?」 「ヒロ、モテてたよ。高校ん時も大学ん時も」 「……は? そんなわけねーだろ」 「あるって。俺、いっぱい女の子から相談されたから。仲良いと思われて」 「……マジで?」 「その度にうまく言って諦めさせてたし」 「……お前、そんな性格だった?」 「ヒロ、自分が顔がいいの自覚なかったからな。背も高いし。静かで人見知りだったけど、その分、優しいじゃん。だからそれに気づいた女子たちが煩いのなんのって」 「はあ……」 「俺はそんなのとっくの昔に気づいてたけど。それを他に知られたくないみたいな気持ちがあったんだよね。高校でヒロが俺と距離置くようになって……その気持ちがヒロのこと好きってことだって気づいた」 「…………」 有がこちらを向いてふふっと笑った。 「俺、結構、独占欲強かったかも」 次の瞬間、大貴は体を反転させて勢いよく有の上に覆い被さった。そのまま、有の首筋に舌を這わす。 「ちょ、ヒロっ!! なんだよ急にっ! 寝ないの??」 大貴の下で、有が不服そうに抗議して、大貴の両肩をぐいぐいと押した。 「だって、お前がいきなり可愛いこと言うから。いいじゃん。お前も寝られないんだろ?」 「そうだけど、さっきしたばっかじゃん。もうそんな若くないし、俺の体がもたないって」 「お前、まだ20代だろ。大丈夫だって」 「大丈夫じゃない!!」 バシバシと背中を叩かれて、痛さに思わず顔をしかめた。 「痛いってぇ! なんだよもうっ。お前、馬鹿力ずげーあんだから、思いっきり叩くなよっ」 「ヒロが無理やりヤろうとするからだろっ」 「ほんと……お前は、いつまで経っても、俺の言う通りになんねーな。ちょっとぐらい、俺のこと立ててくれたっていいじゃん。嫁だろ? 嫁は旦那の言うこと聞けよ」 「俺は、新しい時代の嫁だから」 「なにそれ」 「旦那の言うことばっか聞く嫁じゃないの。自立してんの。共働き夫婦なんだからさ。金回り別だし」 「はあ……」 なんだよ、その変な理屈。と思っていると。 有が大貴の首に腕を回してきた。暗闇の中、有が悪戯っ子のような顔で笑うのが分かった。 「俺、自立してるからさぁ。俺も好き勝手に言わせてもらうし、させてもらうけど」 「……何を?」 「俺とヤりたいんだったら。めちゃめちゃ気持よくしてくれる?」 「…………」 「あと、優しくしてくれなかったら、挿れさせないから、な?」 「…………」 ほんと。思わぬところで、予想外の予想以上の動きするんだよね、この人。それで。そんな首ちょっとかしげて。キラキラした目で見て。そんなおねだりして。もう、こいつは本当に。 可愛い過ぎる。 こんな有がいつも見られるのなら。別に、大貴の思い通りにならなくてもいい。むしろ、大貴を振り回して欲しい。そこまで思う。それは、昔の自分からしたらあり得ないことだった。 人生、何が起こるか分からないから面白いのだろう。そんな人生を目の前のこの男と歩んでいけるなら。例えどんな暗闇の世界でも。眩しいくらいに明るくしてみせる。 だって。有と一緒だったら。 大貴は少しだけ微笑んで、それから軽く有の額にキスを落とした。じっと有の瞳を覗く。 「……分かった。めちゃめちゃ優しく抱いてやる」 そう囁いてゆっくりと有の唇を目がけて頭を落としていく。有が嬉しそうに大貴の唇を受け止めた。 そう、有と一緒だったら。 明けない夜などないのだから。 【完】

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