暗闇の中、ぼうっと天井を見上げる。今夜はなぜか色々と思い出して寝付くことができない。まだ起きているだろうかと、隣に眠る恋人に話しかける。 「有……まだ起きてる？」 「ん……起きてる」 　即座に有が答えた。どうやら有も寝付けなかったようだ。大貴は寝室の天井を見上げたまま話を続ける。 「なあ……俺らが一緒になった時のこと、まだ覚えてる？」 「……当たり前だろ。忘れるわけないって。あんな非現実的な経験したのは他にないからな」 「そうだな……」 　大貴もあの時のことは忘れるはずもなかった。 　現実の世界で再び目を覚ました時。大貴の世界では時間の感覚がなくなるくらい、長い時間が経ったように思っていたのに。現実の世界では、大貴があの世界に留まることを決めた夜のまま、５時間ほど経っていただけだった。 　目を覚ましてすぐ、大貴はテーブルに置きっ放しにしていた携帯を手にした。頭より先に体が動いた。登録したままでほとんど使ったこともない、有の携帯番号を呼び出して、電話をかけた。ワンコールも終わらない内に、相手が電話に出た。 『……もしもし』 『…………』 　なんと話を始めたら良いのか分からず、黙る。電話の向こう側でも有が戸惑っているのが伝わってきた。 　なんとか勇気を絞り出し、有の名前を呼んだ。 『有……』 『…………』 　数秒の沈黙の後、有が呟いた。 『ヒロ……』 『……ん？』 『会いたい』 『……今、行く』 　それで、十分だった。約束通り、有は覚えていた。後から聞いたところによると、あの大貴の創った有が言った通り、夢としてあの時のことを経験していたらしい。しかし、あれはただの夢じゃない、と起きてすぐに感じたという。直後に大貴からの電話がきて、それは確信と変わったらしい。 　急いで着替えて要る物だけ引っ掴んでアパートを出た。有の実家まで自転車を飛ばす。 　有の家に着き、玄関でインターホンを押すと直ぐに扉が開いた。有が顔を出す。 『入って』 『……うん』 　有の両親に挨拶してから有の部屋へと入る。有と見つめ合った。有は、あの世界で会った時と同じ、白い無地のTシャツと短パンを着ていた。言葉はもう必要なかった。 　その後、２人はもつれ合いながら、夢中で抱き合った。有の家族が気が付くかもしれないなんて気にする余裕もなかった。 　あの時の有の体の反応も、声も、吐き出される言葉も、笑顔も、汗も、痛みを堪える表情も、全て初めて経験することだった。大貴が創造した有とは比べものにならないくらい、大貴の予想を超える、最高の夜だった。 　やはり有は自分の思い通りになんかならない。いつも大貴をハラハラさせるし、ドキドキさせるし、時には苛々もさせる。でも。だからこそ、有には永久に飽きない。そう実感した夜だった。 「ヒロ？　どうした？」 　再び回想の世界に入っていた大貴に、有がすり寄ってきた。その有に腕を回して体ごと引き寄せる。 「その時のこと思い出してた」 「……そうか」 「ん……。あれ、どれくらい前だった？」 「あれか？　確か……５年とか６年とかそれくらい前だったよな？」 「もうそんな経つ？」 「そうだな。あの時、ヒロ、ほんとやばかったからな。精神的にかなりやられてたよな」 「そうだったっけ？」 「うん。俺、本当に心配してさぁ。まさか、その原因が俺だとは思ってもなかったけど」 　まあ、あのおかげでヒロの気持ち知れたから、良かったのかもしれないけどさ、そう有が言ってふっと笑った。