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第7話(最終話)
「あっ」
密やかな声を上げて顎が上を向いてしまう。
「胸、感じるんだな…。じゃあ、これはどうだ?」
片方を唇で挟み、空いている両手でチューブに入った、先ほどの薄いピンクのハンドクリームを左手全体に馴染ませた。長い指も例外ではなく。千秋の右の突起を始めは掌で転がすように愛撫する。その堪らない感触に眉を顰めると、今度は4本の指を使って先端だけを弾くように強弱を付けて叩くようにする。
「あ、いいっ!」
胸を指が掠めるごとに下半身にも熱情が集まるのが分かる。先ほど中途半端に放って置かれた内部も収縮を始めたのを自覚して居たたまれない。けれども、制止する気は微塵も起きないのが不思議だった。
「右と左、どちらが感じる?」
耳元に濡れた舌先を感じるともう身体中が熱をはらんだようになり、何も考えられない。
「み、みぎっ…特に先っぽが、とても…」
その先は言葉にならず、喘ぎ声だけが室内にこだまする。
「千秋は先端が弱いんだな…ほらこっちも触ってないのに、もうこんなだ」
下半身ははしたない程勃ち上がり、淫らな露がトロトロと零れているのが理性の飛んだ頭でも知覚出来る。
「千秋の全てを…知りたい」
掠れた低い声を聞き、自然と腰が浮き上がる。瞳を開けると、情欲を宿した雅浩の視線が千秋の秘められた部分を凝視している、熱っぽく。
「オレも……雅浩の全てが…欲しい」
決死の思いで告げると、どこにそんな余裕があったのか、満足げに微笑い、自分のモノにクリームを塗りこめた。右の骨ばった長い指にも。
体内に、あの指が挿って来ているのかと思うと、気が狂いそうな惑乱を感じる。先ほど知った千秋の弱点を執拗に攻める。
「もっと…もっと、太いので…」
「ああ、これだけじゃ物足りなかったか?」
笑いを含んだ余裕のある声に理由もなく苛立つ。最初の部分が挿って来た。思わず息を詰めると、すかさず胸の尖りを四本の指で激しく弾くような愛撫が襲う。それが余りにも快すぎて…身体中の力が抜ける。
「千秋の中は、スゴイな…挿る前からヒクヒクと収縮が始まっていて…挿れるのには手間が掛かるが、挿れた途端、持って行かれそうなキツイ締め付けだろうな…」
狭い机の上で力なく頭を振る。そうしないと頭がおかしくなりそうな快感の渦だった。足が宙を蹴る。
「あ、そこ…、いいっ」
「前立腺だろう?だがもっと悦くしてやる」
そういう雅浩も余裕は無さそうだ。無意識に足が学生服の腰に巻きついた。その正直な足が雅浩を引き寄せる。
雅浩のモノが前立腺を一際強く擦った後で胎内を犯す。それが堪らないほど、悦い。
「ずっと、白いのを零している、そんなに悦いのか?」
どこか満足そうな声を耳元で聞いて、ガクガクと頷く。
「さっき…から…頭も…真っ白」
素直にそう告げると、胎内のモノはビクっと震え、更に大きさを増すのが分かった。胎内にもっと深く埋め込んで欲しくて、努力して足に力を込めた。
「も、もうっ」
「逝くなら、一緒に」
雅浩は両手を千秋の手に重ねる。
「あっ、もうっ」
「俺もっ」
胎内に熱い飛沫が飛び散るのを感じて、射精よりも前立腺を擦ってもらうよりも深い快楽の淵を知った。ふっと意識が遠のく。
気が付いた時には、用意してきた清潔なタオルが水に濡らされ千秋の身体を丁寧に雅浩が拭っていた。
瞳を開けると、雅浩が微笑んだ。
「身体、大丈夫か?」
全裸だったので恥ずかしかったが、身じろいでみた。
「ああ、この程度なら大丈夫だ」
「月明かりのお前も綺麗だ。特にその姿は」
本来なら羞恥心を呼び起こす格好だが、雅浩の瞳の深さに抗えない。
生まれたままの姿のまま机から身を起こし、雅浩の手を掴んで自分の方に誘った。
机の上に2人並んで座り、雅浩の大きな骨ばった肩に頬を埋めた。
「オレは、雅浩に何の約束も出来ない。東京の大学にも行けるかどうか分からない。こんなんで雅浩を満足させられたのかも分からない。でも、雅浩の寂しさを共有したいと思っている。それだけではダメか?」
呟くように言うと、雅浩は千秋の右手を恭しく両手で包んだ。そして騎士が女王にするように掌に接吻をした。
「今のところはそれで満足だ。千秋こそ俺でいいのか?」
「ああ、こんな気持ちになったのは初めてだ」
そう告げると、自分から身を屈めて雅浩の唇に接吻を贈った。
銀色の月の光が2人を照らしていた。
千秋は今まで友達とはある程度の距離を持って付き合ってきた。それが初対面の雅浩には自分でも驚くほどの――肉体関係さえ厭わないほどの――執着を持ってしまっていることに気付く。両親から実質上は遠隔地に島流しをさせられた自分と、彼の抱えている心の闇は現象的には異なるが、本質的には似ているのかも知れないと。だから惹かれたのだと。
何も知らなかった自分の身体に彼のモノを迎え入れた。そのことに後悔はしていないが、昔とは違った自分になってしまったと思う。
そして、雅浩と付き合って行く上で――彼の深すぎる心の傷も気掛かりだ――物思いが増えるだろうな…と漠然と思う。
それでも、彼のトラウマを癒したいと心の底から思った。
銀色の月の光に照らされた彼の男らしい端整な顔を、口付けをしながら見る。
何時覚えたのか、百人一首の和歌が不意に千秋の意識に浮上する。
「逢い見ての 後の心に 比ぶれば 昔はものを 思はざりけり」
冷たいが、どこかそんな2人を祝福するような月光だった。
<了>
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