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第1話

心の中が空になってしまった僕には、貪欲な女のような「抱きしめられたい」「満たされたい」そんな気持ちしか残っていなかった。相手なんか誰でもいい。ただ僕の心の器の中身を埋めてくれる幻覚を見させてくれる相手なら……。 夏のジリジリと熱するような日差しを全身で浴びながら、僕はスマホの地図機能を頼りに見知らぬ道を歩いていた。向かっているのは新居。再婚した母と共に新たな住居に移る事になったのだ。夫婦の中に割って入るような事はしたくないので一人暮らしも考えたのだが、結局今の状態になってしまった。 汗を拭いつつ、父にも僕と同い年の息子がいると言っていたのをふと思い出した。父には何度も会っているがその息子には今日はじめて会うことになる。元々人付き合いが得意な方ではないが、打ち解けることができるだろうか…。とそんな事を考えながら歩いているうちにスマホが目的地到着の効果音を鳴らした。 玄関のチャイムを鳴らして扉が開くのを待つ。 「はい…。」 控えめな声と共に開かれた扉を見て頭が真っ白になった。 「え…。なんで…お前が…」 目の前にいる相手は、もう二度と会うことはないと思っていた男だった。向こうも少し目を見開いて困惑しているようだった。だが直ぐに何かを理解したかのように、 「よろしくね?深月くん?」 挑発するような笑みを浮かべた。

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