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第19話 過去

「え、えぇぇぇぇぇ、」 驚いて、座ったまま高速で後ずさる。が、声の主は、そんなことなど御構い無しの様子で、じりじりと近づいてきた。 「なーんで逃げんだよ。こっち来いよー」 「だ、だって君はさっき…!」 短い銀髪。いたずら好きのする笑み。 「と、巴さんから逃げて、向こうに…!」 間違いなく、この子は、さっきのすばしっこい王子だ。一体、なぜ。 「あー!もしかしてあいつ、そんなに俺に似てた!?くくくっ、やっりー!」 「……へ?」 ポカンとする蝉に、王子は自慢げに鼻の下を擦った。 「あいつ、双子の兄貴なんだよ。巴が説教ばっかでめんどくさいから、ちょっとの間俺に化けてもらってんだ。ま、化けるつっても、俺ら顔ほとんど一緒だけどな!わははははっ」 「双子…。す、すごい」 「へへ、すごいだろすごいだろ。似てんのは顔だけで、性格は雲泥の差だけどな。 あ、もちろん俺が雲だぜ!?あいつ、暗いし固いしつまんねーの。父さんや母さんは、俺にもっと兄貴を見習えーって言うけどさぁ。ぜってぇアイツが俺を見習うべきだろ!いやまじで!」 一気にまくしたてて、最後にわははと豪快に笑う王子。 蝉は今までこういうタイプの者にあったことがなかった。マシンガントークに、あたふたとあいづちを打つ。 「お、お兄さんの名前は何ていうの?君は、確か、仁さん、だよね?」 勇気を出して、一つ質問をしてみる。 「そ、俺、仁。兄貴の名前は葉暮(はぐれ)」 「はぐれ、さん」 「そ。変な名前だよなー」 仁はそう言って笑ったけれど、蝉はそうは思わなかった。漢字こそ分からないが、なんだかとても綺麗で、儚い名前のような気がした。 「お前はなんて名前なんだ?」 聞かれて、とっさに目を泳がせる。自分の名前こそ変だと、そう思ったからだ。 言おうか言うまいか、心がぐるぐるした。 「なーなー、なんてゆーんだ??教えろよ」 けれど、あっさり仁の勢いに乗せられてしまう。 「ぜ、蝉…。セミって書く」 「え、セミぃ?」 案の定目を丸くする仁。ずいと寄ってきて、 「お前セミなのか?」なんて言うものだから、むっと下を向いてしまう。 仁が教えろって言ったくせに。

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