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第1話
夏だから、幽霊の話をしよう。
祖母の家には幽霊がいる。
二階の奥の和室に彼は棲んでいて、たいてい窓枠に座ってぼんやり窓から外を眺めている。二十代くらいの男の幽霊で甚平を着ていた。整った顔立ちのせいか怖いと思ったことがない。
というよりも、そこにいるのが当たり前になっていて恐怖心がわかなかった。
そもそも彼が幽霊だと気がついたのはかなり後のことで、最初に彼を見たのがいつだったかもう覚えていない。
でも彼が幽霊だと認識したときのことは覚えている。
僕が小学一年生の夏休みのことだった。
車で五分の祖父母の家にはよく遊びに来ていたけれど、初めて一人でお泊りすると決めて、祖父母と僕で夕食を食べていた時だった。
いつもなら忘れている彼のことを思い出したのは、その日、祖父が甚平を着ていたからと騒がしい弟や妹がいなくて静かな食卓だったせいだ。
「お兄ちゃんはご飯に呼ばないの?」
「誰のこと?」
僕の質問に祖母が首をかしげた。
「二階にいるお兄ちゃん」
そう言えば、彼は一度も食事に来たことがないし、テレビも見に来ない。
その時まで僕はそれをふしぎに思ったことがなかった。物置として使っている二階の奥の和室には滅多に行かないから、たまにしか見かけない彼のことは忘れていたんだ。
「お兄ちゃん? 二階には誰もいないよ」
祖母はそう言って笑った。
「そうなの?」
今日はいないのかなと僕は思い、その話はそれで終わった。
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