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第16話
気がつくと二階の和室で本棚にもたれていた。
手にしているのは中原中也の詩集。
修一郎の写真が挟まっていた本だ。
本棚に戻して、うーんと伸びをした。
もうここに修一郎はいない。
康平とシンクロした僕は事情が理解できていた。
修一郎の結婚と事故死を療養先で知った康平はとても悲しんで、もし魂があるのなら僕を待っていろと強く強く願った。希望の願いではなく絶望をこめた暗い呪いの願いだ。
それは康平に未練を残していた修一郎の魂を引き寄せ、この部屋に彼の魂を呼びこんだ。修一郎は康平の望み通り、この部屋でずっと待ち続けていたのだ。
康平が亡くなったあともずっとずっと、長いあいだ。
その呪いはもう解けた。
ここで会えた二人がどうなったのか、それは僕にはわからない。どこかへ行ってしまったのだろう。行先はあの世か天国か……。
地獄ってことはないと思いたい。
ともかく今、あの部屋に幽霊はいない。
片付けの終わった部屋はすっきりとして、もう修一郎の本も康平の持ち物もない。
祖母の“だんしゃり”は終わったのだ。
僕の話はこれでおしまい。
完
最後までおつき合い頂きありがとうございました。
普段とちょっと違う感じのお話でしたが、いかがでしたか?
切なくて優しい話を書こうと思って書きました。
時代と状況で結ばれなかった二人ですが、私のなかではアンハッピーではないのです。
皆さまの感想いただけたら嬉しいです!(^^)!
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