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ラブ・アット・ファースト・サイト ――貴方に一目惚れ 1
姫野建樹(ひめの たつき)に人事部からの通達があったのは繁忙する年度末を目前に控えた、二月も中旬のことだった。
「業務センターへ異動、ですか……わかりました」
それは予期せぬ出来事ではなかった。当の昔に覚悟を決めてはいたが、いざ現実となると足がすくみ、上司が読み上げる今後の引継ぎの計画も、先方との打ち合わせの予定も、どれも耳に入らないから残りもしない。何もかもが虚しく、頭上を素通りしていく気がした。
先だって大手都市銀行同士の合併が行われたばかりである。日本経済の変動、金融機関を取り巻く状況の急激な変化に対応するために、組織編制に柔軟性を持たせて云々……
容赦ない処断を屁理屈でコーティングする、いかにも上層部のやりそうな所業だが、たかが一行員に抵抗する術など、持ち合わせるはずもない。
反旗を翻して他行へ移るもよし、若さに任せて転職するもよし。しかし、今の彼にはそこまで決断するほどの気力はなく、体力も残されていなかった。
入行して三年、ようやく一人前と呼ばれる齢を迎えた矢先に、ルートをはずれる事態になると予想してはいなかった、するはずもなかった。
父の突然の死、母と自分自身の病気……あらゆる不幸が時を待たずして襲い、翻弄されるうちに取り残されていた。
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