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ラブ・アット・ファースト・サイト ――貴方に一目惚れ 2

 入行して三年、ようやく一人前と呼ばれる齢を迎えた矢先に、ルートをはずれる事態になると予想してはいなかった、するはずもなかった。  父の突然の死、母と自分自身の病気……あらゆる不幸が時を待たずして襲い、翻弄されるうちに取り残されていた。  だが、今さら泣き言を言っても始まらない。これが運命だったのだと自分自身に言い聞かせながら、建樹はいつもと同じ、美しいけれども冷たいと揶揄される、取り澄ました表情で同僚たちに挨拶をすると、更衣室へと向かった。  動揺している、ショックを受けている、と悟られるのは我慢がならなかった。すべての不運を平然と受け流す、そういう演技を続けてきたのだ、舞台の主役は最後まで務め上げなければならない。 「……やっぱりこうなっちゃったわね」 「だって病欠でしょ、仕方ないじゃない」 「だからタイミングが悪かったのよ。何だか可哀想」 「でも、リストラされるよりはマシじゃないの? センターだってお給料は同じだし」 「あら、センター行きが事実上のリストラなのよ、そんなことも知らないの」 「えっ、知らなかったわ」 「それにしたって、ウチの支店ナンバーワンのイケメンがいなくなるのが耐えられないわよ~。お客だって減るわよ、きっと」 「そうそう。残ったのはダッサいオヤジばかり。あいつらが異動すればいいのに」

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