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庭に繋がっている縁側に出て下駄を履く。
目の前に広がるのは日本庭園
庭園様式は枯山水となっている。
カランカランと音を立て歩いた先は東屋
石畳の上を歩き水琴窟 、灯籠を横切り辿り着くと腰を下ろした。
この人物。
花京院 周
由緒正しき花京院の長男であった。
着物を卒なく身に付けている。
黒い艶のある髪は左側のみ耳にかけている
どうやらこれは彼の癖らしい
「はぁ…なんてつまらないんでしょう」
周の髪と同様黒い目が見つめる先には椿、木蓮、クチナシ、ツツジ、色々な木が並んでいる。
見つめると言っても花や木を見ているのではない。
どちらかというと黄昏れている
「疲れましたね」
「なににだ?」
突然頭上から聞こえてきた声に顔を上げると知る顔がある。
「平助、今日は中々早いですね」
「今日はな。 花京院の下働き共が俺の侵入に気付かなかった」
「あぁ…彼等ですか。」
「全く五月蝿いったらありゃしねえ。いつもいつも周様~周様~ってあいつ等はからくり人形か何かか?」
「…まぁそう言わず。彼等も先代に言われたとおりやっているのです。」
花京院の命令通り働くのが下働きのお役目
周の奉仕をするのも監視をするのも役目なのだから仕方がない
もし周に何かあったのならば、まずは先に叱られるのは下働きの人達なのだから。
「ハッ、窮屈だな全く。…ところでさっき言ってた"つまらない"とは何についてだ?」
「あれですか。 全てにですよ。私はご覧の通り身体も大きくない、加えて身体が弱い。先代が外に出したがらないのです」
毎日毎日、先代から聞かされるのは
らしく振る舞え、意識を持て、など陳腐な言葉ばかり。
周はいい加減そんな日々に飽き飽きしていた。
周はもうすぐで18になる。
そんな周からしてみれば、どれもこれもつまらなく映る。
一番、はしゃぎたい時期に存分に自由にできないのだから当たり前といえば当たり前だ。
「もったいないねえ。外を出れば可愛いおなごが沢山いるのに」
氷屋の息子には理解しがたい、というように
口角を上げ薄く笑う
この男、平助は精巧な顔立ちをしており
そのせいも有り町のおなごを誑かしている
「口を慎みなさい。…なんというか、品がないですよ」
「何を言うかと思えば。別にいいだろ?俺らだって夜を共にした仲なんだ」
「…あれは若気の至です」
一度…いや二度程、周は平助に抱かれたことがある。
あれは周が先代に婚約者を紹介された時のこと
***
周は走っていた
距離にして50mにある氷屋を目掛けて
下駄の鼻緒が途中で切れてしまったがそんなのはどうでもいいようだ。
目的地に着くとドアを強く叩く
もう空は暗く時間でいうと丑三つ刻
辺りには誰もおらず聞こえるのは自身の吐息とドアを叩く音ほどだ。
「ああ?どちらさん…随分珍しいお客さんだ」
暫くして出てきたのは平助であった
「ッ…!へいすけ、へい、すけ」
今まで我慢していた糸がぷつりと切れたように
グズッと、らしくもなく泣きながら平助に抱きつくのである。
幼少の頃からの友といえば平助ぐらいしかいない
あの頃は身分などという隔たりもなく接していたのに歳を重ねるに連れ平助以外の人々は周から離れていった。
「とりあえず上がれ」
もしかしたら追手がいるかもしれない。
そして、こんなところを人にでも目撃されたら大問題である
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