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* 如月はあっという間に過ぎ、春風が頬を撫でるように柔らかく感じられる頃合い。 「よ」 今日も今日とてやってきた侵入者が縁側に座る周の隣に腰掛けた。 ピタリと肩と肩がぶつかる。 「全く、貴方って人は毎度毎度懲りずに…」 「あーあーとか言ってさぁ、俺が来なかったら来なかったで寂しがるのはどこのだか」 「知りません」 ぶっきら棒に言い放つ周の顔を何やらニヤニヤと平助が覗き込む 「な、お前んちの親、今日から1週間留守だったよな?」 「なんでそれを」 こいつはいつもどこからこの家の情報を手に入れるんだ、と少々吃驚した表情で平助の顔をジッと見つめる。 「まぁそこは置いて於てだ、今なら親父たちの見送りで忙しいから見張りも手薄だろ?早くいくぞ」 ニシシ顔でぐいぐいと袖を引っ張られ困惑した声で問う 「ちょっと待て、いくってどこに」 「そりゃあ外にさ、南に山があるだろ?そこん所の裏に叔父が昔使ってた空き家があるんだ。んでだ、お前の親父たちが帰ってくるまでの間そこで2人で過ごすってわけ」 「どうせ留守でもそうじゃなくても毎日稽古やら勉強やら退屈だし、名案だろう?」 次は肩を組まれ「なぁなぁ」と体を揺すりこちらの返事を促してくるではないか 確かに毎日同じことの繰り返し、とても退屈である それに親が出て行った後、周が少しばかり家出をしても親の耳に届くのに結構時間がかかるだろう。もしかしたら周の行方が不明になったことを隠蔽しようと伝達すらしないかも。そうなれば下働きたちは家主が帰ってくるまでに血眼になって周を探すに違いない。ちょっとした事件だ。 「…まぁ、いいか」 そう、どうだっていいのだ いくら人に迷惑をかけようと、この箱庭の息苦しさったらない 「おお!んじゃ早速」 「わ、ちょっと」 腕を引かれ立ち上がり、塀で囲まれた庭にある一本の大きな桜の木に向かう。 いつもこの木を登って塀の中に入ってくるのだこの侵入者は 桜の木の目の前に2人並ぶ、所々凹凸があり頑張れば登れそうな木だ しかし、周は生まれてこの方そんな、木に登るなど野蛮なことはした事がなかった故、茫然と上を見上げるのであった。 果たしてこの木を登る事ができるのか…登れたとしても結構な高さ、降りるのが問題だ。 下手をしたらどこか骨折してしまうかもしれない。最悪の場合打ちどころが悪くて死… とても不安である。 「大丈夫、だいじょうぶ。俺が先に塀を越えて落ちてくる周を万歳で抱き留めてやるから」 「そんなの、怖いに決まっているでしょう!」 「じゃあ、今言った通りな」 そう言って周の横を抜けあれよあれよと登っていく 「平助!貴方はいつもこう…強引なところがありますよ!」 登っている平助の背中に言いつける 「なんだ、最中のことか?」 すると振り返りにやりと一言返すと、また登ることに努め始めた 「何を…」 「このすけべえ!」と怒りで震える拳をギュッと握り言い放った。 「こら坊ちゃん、あんまり大きな声を出すと誰か来るぞ」

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