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煌めきの道しるべ
「うわ……、すっごい列だな」
「また増えたんじゃねえの?」
初詣を終え、拝殿から離れて振り向くと、参拝客の列が彼方まで伸びている。
訪れた時もすでに行列であったが、心なしか増えたように感じられ、傍らで佇む響の言葉に同意する。
「だよな。さっきはあの辺が最後尾だったし」
「俺らも結構待ったけど、これからだと辿り着くまでどれだけかかるんだか」
「だなあ。でもそれも楽しいって。みんな嬉しそうにしてるしな」
「まあ……、それもそうか。意外にあっという間だったしな」
ジャリ、と小石が音を立てる度に歩を進め、来た道をゆっくり戻っていく。
辺りを見回せば、参拝客の列が遠くまで続いており、待たされながらも誰もが朗らかに語らっている。
天を仰げば青空が広がり、柔らかな日射しと穏やかな風に助けられ、想像していたよりは随分と暖かい。
まさにうってつけだな、なんて自然と顔が綻び、響と肩を並べながら心地好い境内を歩いていく。
「ところで、今年は何願ったんだよ」
「何がところでだよ。大体、言うわけねえだろ」
「え~、教えてくんねえの? ケチ」
「ならお前は?」
「俺? ひみつ!」
「なんなんだよ……」
ニッ、と満面の笑みで答えると、隣で響が不服そうに眉根を寄せている。
毎年のように聞いているが、本気で教えてもらおうなんて思ってはいない。
何となくお決まりになっていて、最終的には響に小突かれて終わり、今年も例に漏れず昨年に倣った。
「いってぇ……」
「そんな強く叩いてねえし」
「あ、やっぱ加減してくれてたのか? ハハ、やっさし~。どうりで全然痛くねえと思った!」
「ハァ!?」
痛そうに腕を擦ると、一瞥してから響が呟く。
手加減してくれたのだろう事は察していて、実際は全く痛みなんてなかった。
今度は褒めるように目線の高さを合わせて微笑むと、お気に召さなかったらしい響が睨んでいる。
次いで容赦なく叩かれ、追撃を避けて身を翻す。
逃げんな、と責められながら攻撃を受け流しつつ、賑やかな境内を歩いていく
背を向けた拝殿からは、一定の間を置いては鈴が鳴らされ、今もなお途切れる事なく人々が祈りを捧げている。
「わりわり、マジでもう降参。やっぱ響ちゃんの拳は重てえわ」
「何か……、バカにされてる気がすんだよな」
「してねえって、ほら! おみくじ引こうぜ、おみくじ」
「話逸らしてんじゃねえよ」
「おみくじ引かねえ?」
「引く」
不機嫌そうに歩きながらも、素直に乗ってくる。
思わず笑えばまた睨まれたが、まあまあと肩を擦りつつ近付いていき、程無くして社務所に辿り着く。
「お、今年はネズミのキーホルダーあんじゃん」
「ネズミ年だからな。つうかおみくじ引くんじゃねえのかよ」
「引く引く。響、ほら。学業成就」
「この後のリアクションによっては、お前」
「ハハハ、うそうそ。響ちゃんは頑張ってるもんなあ」
「お前はもっと頑張れよ」
「うわ、厳しい。じゃあ、お勉強するかな~」
「全然思ってねえな」
冷静な切り返しを笑い飛ばしつつ、本来の目的であったおみくじを引く。
選んでも仕方がないが、ほんの少しだけ掻き混ぜてから拾い上げると、続いて響がおみくじを前に立つ。
考える素振りを見せながらもすぐに決め、互いの手には一つのおみくじが握られている。
「さて……、今年は何がでっかな~」
「凶」
「凶? 俺?」
「そんな気してくるだろ?」
「全然しねえ。つうか、言っちゃった響こそ引いちゃったんじゃねえの~? 慰める準備しとくな」
「ほざいてろザコ」
「ハハハ、んじゃ見るか。あ~、やべ何か緊張するな!」
おみくじを握りながら歩み、人波から外れたところで立ち止まる。
思えば、毎年こうして肩を並べておみくじを引き、結果を見せ合っている。
何か、ついこの間みたいに思っちまうけど、もうあれから一年経ったんだよなあ。
「お、中吉じゃん。結構いいな」
「え? お前中吉?」
「おう。響は?」
「……俺も」
感慨深い気持ちでおみくじを開き、中吉という結果が目に留まる。
何が出るか予想していたわけではないが、それでも好調な滑り出しと感じられ、そうなると傍らにて佇む響が気になってくる。
笑顔で問い掛ければ、少々躊躇いがちに間を空け、どうやら同じであったらしいことを知らされる。
「え、同じ? 響も中吉だったのか」
「ああ……、お前と一緒なんて何か複雑だ」
「何でだよ、いいじゃん。同じって今までなかったよなあ」
「そう……、だな。あと一歩足りねえ」
「てことはだ、来年は大吉か?」
「何でそうなるんだよ。んな上手いことできてるわけねえだろ」
「わかんねえよ? 今年めちゃくちゃ頑張れば、よく頑張ったって褒めてくれっかも」
「それで凶出たら寝込む」
「ハハハ、まあ確かにな。落ち込みそうだよな!」
他愛ない話をしている間に、目の前を何人もが通り過ぎていく。
幸福な雰囲気に充たされ、眺めているだけでもつられて笑ってしまう。
響といえば、暫くは自分が引いたおみくじを眺め、どのような事が書かれているのか読んでいるらしい。
その様子を見守りつつ、自分でもおみくじを読んで思い描き、今年も良い年にしていきたいと願う。
「でも……」
「ん?」
この後はどうしようか、なんて考えていると、未だ伏し目がちにおみくじを眺めていた響が声を上げる。
「お前が褒めてくれんだろ? 俺はそれがいい……」
どうしようもないくらい照れたらしく、言いながらどんどん顔を背けていく。
え、なんてわざとらしく顔を覗き込もうとすると、力一杯に腹を叩かれた。
よく見ると頬が赤くなっていて、いざ言ったら思っていたよりも恥ずかしかったのだろう事が窺える。
それでも、言葉にしてくれた想いが嬉しくて、ますます甘やかしてしまう未来の自分が目に見えるようだ。
「よしよし、響ちゃんはいっつも頑張ってるもんなあ」
「おい……、何だよガキか。そんなんで俺が」
「なでなで。嫌いだっけか」
「……嫌い、ではねえ……」
「よしよし、響ちゃん。今年もよろしくな~」
「このガキ扱いを何とかしろ……」
「やめる?」
「……くっ」
【END】
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