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第28話 夏祭り3 視点:昴
楽しいデートになるはずだったのに、見たくないものを見てしまった。
中学生からは毎年、颯馬と飛鳥と3人で来ていた夏祭り……一緒に行けない状況を作ったのは自分なのに、2人が一緒にいる姿を見かけただけで胸が苦しくなった。
見ていたくなくて、夢中で走り出したので下駄の鼻緒が食い込み、足が痛む。待ち合わせ場所からもずいぶん離れてしまい立ち尽くしていると急に目の前に人が現れ驚く。
「君、高梨くんでしょ?」
「え…あ、あの……」
見知らぬ相手に名前を呼ばれ恐怖を感じ後ずさると、背中が誰かにぶつかった。
「あ、ご……ごめんなさい」
慌てて振り返ると、それは何度か見たことのある顔で、中学生のころ自分の事を標的にして面白がっていた同級生の1人だった。
「高梨、迷子にでもなった?いつもの咲洲と茅野は?」
2人の名前を出され泣きそうになる。
「何その顔、そんな顔されたらまるで俺たちがいじめてるみたいじゃん」
気づけば3人に囲まれ、うまく逃げれる状況ではなくなっていた。
「高梨1人しかいないなら俺たちが一緒に遊んでやろーか?」
恐怖のあまり嫌だという言葉が喉に詰まって、唇をパクパクするだけで音をなさない。男たちに手を引かれるまま道外れの雑木林の奥へと連れて行かれる。
「なあ、高梨……俺たまたま見ちゃったんだけどさ、お前駅のトイレにキモいおっさんと2人で入っていって何してたわけ?」
頭が真っ白になった。トイレに連れ込まれた時のことを誰かに知られているとは思っていなかった。
「何してたか俺たちにも教えてよ、高梨ちゃ~ん」
「こいつ男のくせに胸でけぇな」
浴衣の襟を無遠慮に引っ張られ、左胸が露わになる。手のひらで胸を鷲掴み揉みしだかれる。
「結構柔らかいじゃん。これなら俺、イケるかも」
指の股が突起に触れると、自分の意思に反して身体を貫くように甘くしびれる。
「ん……ん!」
男たちが息をのむのがわかった。
「な、下もどんな感じか触ってみねー?」
「はぁ?ちんこついてるだろ、こいつ。萎えるからやめろって」
「あ、でもこいつ。ケツも結構柔らかい」
そう言って無理やり四つ這いの姿勢をとらされ、浴衣を捲り上げられる。下着も半分ずらされお尻を揉まれると行為に慣れた身体は反応してしまう。
「ケツ穴ぴくぴくしてんじゃん。入れてほしいってことかよ」
お尻に生温かいものを擦りつけられハッとする。相手は自分の身体を見ればやめてくれるのではないかと思っていたが、どうやらそんな甘くはなく、このままでは3人の処理に使われるということに気づき、恥ずかしさを押し殺しながら叫ぶ。
「や、助けて。誰か……やだ、誰か!!」
だが、通りの喧騒でかき消され、声は届くことない、男の1人に頭を掴まれた。
「んだよ、急に叫ぶんじゃねぇよ!見つかったらどうしてくれんだよ!」
容赦なくお腹を蹴られ、痛みで涙が出る。
「や、…っ颯馬……助けて!!」
いつもこうして嫌な目にあった時には何度も心の中で繰り返した言葉だった。
すると、風が吹いたかと思うと鈍い音が傍で響いた。
「よう、また会ったな、小林……中学ぶりじゃねーか。あれだけ返り討ちにしてやっても懲りねぇ上に新しい仲間まで連れてうちの可愛い昴に何の用だ?」
地面に座り込んだ男が、ヒッっと小さく悲鳴を上げた。何度も嫌がらせをしてきた相手は小林という名前であることを初めて知った。
「警察に連れていかれるのと、俺と飛鳥にまた灸を据えられるのどっちがいいんだ?」
問いかけた男は、返事をしない小林の股間を踏みつけぐりぐりと体重をかける。
小林は情けない声を上げ、ごめんなさいと繰り返す。仲間は我先にと逃げていき、小林は見捨てられた。
はぁ、と大きなため息をつき振り返ったのは青いお面をつけた男だった。
「おい、昴……何でこの状況で天賀谷じゃなくて俺の名前呼んでんだよ……」
「そう……ま?」
「とりあえずこいつどうする?お前が殴りたいなら殴ってもいいけど」
足元の小林を一瞥し、首を振る。
「そんな人どうでもいい……」
「あっそ。よかったな、小林。優しい昴に感謝しろよ。あと、お前らのしたこと証拠に残してるから変な気を起こして報復しようとしたりするなよ」
足を退かし解放すると、小林は一目散に逃げて行った。
「で?お前すごい格好になってるけど何かされた?」
首を横に振ると、颯馬はまた大きなため息をついた。
「とりあえず浴衣着直してくれ、正直目のやり場に困る……」
「そうま……立てない……」
甘えるように両手を差し出すと、颯馬は仕方ないというように手を貸してくれる。その優しさが嬉しくて泣きたくなって颯馬に抱きつく。
「そうま……そうまぁ」
嬉しいとか悲しいとか寂しいとか色々な感情が涙になって溢れ出す。
颯馬にとってのたった1人のお姫様は自分ではないとわかっていても、自分にとっての王子様はどうしたって颯馬なのだと思い知らされたようだった。いくら当てつけのように飛鳥のものを奪って、飛鳥に勝ってみせても満たされるのは一瞬で虚しさばかりが胸に積もる。
なのに、颯馬は自分のものにならないとわかっていてもこうして居てくれるならどんなに酷いことをされてもいいと思ってしまう。
「そうま……」
颯馬にキスをしようとすると、顔を背けられた。
その仕草で何となく、飛鳥とのキスを上書きしたくないのだろうと察した。
「ね、颯馬……キスはしなくていいから」
乱れた浴衣の襟を広げる。颯馬に見られていると思うだけで身体が熱くなる。
「どこでもいいから……俺のこと……噛んで」
どんな形でもいい。今だけでいいから、俺だけの颯馬でいて。
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