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第27話 夏祭り2 視点:颯馬

部活で忙しい飛鳥とは課題を教えるために短時間会う程度で、こうして時間を取ってどこかに遊びに行くのは久しぶりだった。 男女のカップルの多くは浴衣姿なのを横目で見つつ、自分たちはお互いにTシャツにパンツ、スニーカーというラフな格好である。 それでも少し大きめの真っ白なTシャツを着ているだけで可愛く見えてしまうのは惚れた欲目だろうか。 「そまくん、僕、たこ焼きとフランクフルト食べたい!」 そう言って繋いだ手を引っ張ってくる飛鳥に思わず頬が緩む。 一緒に帰る際に手を繋いで以来、自然と手を繋ぐ機会が増えた。トラブルに巻き込まれやすい昴の手を引くことは度々あったが、飛鳥は見た目に反してしっかりしていることもあり、2人で手を繋ぐことがなかったので新鮮だった。 「飛鳥、先にフランクフルトにしろ。お前、絶対にたこ焼きを先に買ったらフランクフルト食べるのに邪魔だとか言って俺にゴミを押し付けるだろ」 「え~、まあ……持っててってお願いはするよね」 「フランクフルトからにしろ。俺だって食べるんだから俺も邪魔だって思うにきまってるだろ」 「はーい」 2人でフランクフルトの列に並ぶ。こんなに人が多い中で誰に見られるかもわからなくても手を放さずにいてくれることに嬉しさを感じていると、順番が回ってきた。 「2つください」 店の若い男からフランクフルトを2つ受け取ると、列から外れて一旦人ごみの少ないところに移動する。飛鳥は、物欲しそうな目でフランクフルトを見つめている。 「お前ホント食い意地張ってるな……」 呆れながらも一本差し出すと、飛鳥は手で受け取らずにそのまま口を開けて食べようとする。 一瞬思わず性的な目で見てしまい動揺で手元が揺れ、飛鳥の口の横にケチャップがついてしまった。 「もう、そまくん、ちゃんと食べさせてよー!」 文句は言うが、ケチャップを拭く様子はなく、どうやら口元に付いたことには気が付いていないようだった。 「飛鳥、ちょっとじっとしてろ」 フランクフルトは一度口元から離し、代わりに少し屈んで顔を近づけ口元についたケチャップをぺろっと舐めとって見せる。 飛鳥の唇にも少し触れ、柔らかな感触とケチャップの酸味を味わう。 「な……な!そまくん!!」 顔を真っ赤にしてぽかぽかと腕を叩いてくるが痛くないので本気で怒っているわけではなさそうだ。 「お前がケチャップつけたままにしてるから取ってやったんだろ」 「そ、そうかもしれないけど僕まだいいって言ってない!」 「何だよ、じゃあ俺が素直にキスさせてくれって言ったらさせてくれるのかよ」 どうせ拒否されてへこむことになるのだろうと思いつつもそう言い返すと、予想していた反応とは違い即座に拒否の言葉は返ってこない。 飛鳥の様子を窺っていると、急に腕を引っ張られる。 「そまくん!こっちに来て」 飛鳥に誘導されるままに移動する最中。見覚えのある金髪が視界に入った気がしたが、すぐにそんなことを考える暇はなくなってしまった。 飛鳥に人影の無い雑木林に引っ張ってこられたかと思うと、首に腕を回され強制的に屈む姿勢になると、唇に柔らかく温かいものが触れた。 ありえないことが起こり、それが飛鳥の唇だと気が付くのに時間がかかってしまう。 「は?え……あす……か?」 「何その顔、キスしてほしいって言ったのそまくんでしょ……」 真っ赤な顔をして拗ねたような言い方をする飛鳥が可愛くて思わず抱きしめたくなったが、手に持っているフランクフルトで飛鳥の服を汚してしまうわけにもいかず、ぐっと我慢する。 「なあ、飛鳥……もう1回してくれないか?」 「……今日は、もう1回だけだからね!」 約束通りもう一度だけ飛鳥からのキスを受けて、手を繋いで人通りの多い出店の並びへと戻り、フランクフルトを食べつつたこ焼きを買って、腰を下ろして食べられる場所を探すことにした。 「あ、見て、そまくん!あれ欲しい!!」 飛鳥が急に叫ぶので何かと思って見てみると、おそらく戦隊モノのヒーローと思わしきお面が並んでいた。 「買ってきていい?」 「好きにすればいいだろ」 特に止める理由もなく、飛鳥が楽しめればそれでいいのでそう答えると、飛鳥は素早くお面屋のおやじに話しかけてお面を2つ抱えて帰ってきた。 「おい……もしかしてそれ、俺にもつけろとか言わないよな?」 「え?もしかしなくても、こっちはそまくんがつける用だよ?」 当然のように差し出された青色の戦隊ヒーローのお面と飛鳥の顔を思わず見比べてしまう。 はぁとため息をつき、頭を下げる。 「つけてもいいけど、俺まで顔につけたら他の人とぶつかってたこ焼きが大惨事になりそうだから頭につけるだけにしておいてくれ」 妥協案ではあったが、飛鳥は納得して頭にお面をつけ、飛鳥自身はしっかりと顔にお面をつけた。 「そまくん、僕がはぐれないように腕貸して!」 飛鳥が急に腕を組んできて驚いたが、断る理由はもちろんない。 「はいはい、あんま引っ張ったらたこ焼きが酷いことになるからな」 照れているのを隠すようにそう言うが飛鳥は気にした様子もなく「はーい」と返事をした。 しばらく奥に歩いていくと、わき道に逸れたところにある御堂へと続く階段が休憩スポットのようになっていた。 とりあえずそこに座ってたこ焼きを食べることにした。 飛鳥が階段に座りたこ焼きを食べ始めた頃、人通りの多い出店の通りをぼんやり眺めていると、見慣れた浴衣と背格好の後ろ姿が何人かに囲まれて人通りのない方へと移動していくのが見えた。 「なあ……飛鳥」 呼びかけると、飛鳥はたこ焼きを頬張りながらこちらを見る。 今見た光景を説明するべきか悩む。もしかすると見間違えかもしれないし、説明してしまえば間違いなく見に行くと言ってきかないことは容易に想像がついた。 見間違いであっても何かあった時に飛鳥なら絶対に放っておかないとわかっていて連れて行くのは危険なのではないこという考えが勝った。 「……ちょっとおとなしくここで待っててくれるか?」 「?そまくんトイレでも行くの?」 「そうだよ。だからここでいい子で待っててくれ」 「また僕のこと子ども扱いして!もう、さっさと行ってきなよ!」 「はいはい、行ってくるから、俺がいない間に何かあったら絶対連絡して来いよ」 そして、そのまま見間違いであることを願いながら後ろ姿が消えた方へと向かった。

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