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第26話 夏祭り1 視点:京一
「……よし」
動画を観ながらグレーに紗綾形の浴衣と濃紺の帯を自分で着付け、母の部屋の姿見で不格好ではないか確認した。
今日は比較的大きな夏祭りが開催される。電車に貼られているポスターをじっと見つめていた昴に尋ねると、毎年行っているからどうしようか悩んでいることを教えてくれたので一緒に行こうと約束した。
長らく浴衣を着ることもなかったが、昴は毎年着ていくと言うので一緒に買いに行った。前日に何度か着付けの練習をしていたので、思ったよりもきちんと着られたなと鏡を見ながら思った。
足に合うものを選んだつもりだが、履き慣れない雪駄で迷惑をかけないように足袋靴下を履き、絆創膏やガーゼも財布や携帯電話やハンカチと一緒に念のため巾着に入れて駅へと向かう。
駅に着くと待ち合わせの10分前だったが、5分もしないうちに昴がやってきた。
麻で出来た紺の浴衣にラインの入った白い帯がよく似合っている。
「昴くん、すごく似合ってるよ」
素直な感想をつたえると、はにかむ表情がさらに愛らしい。
一緒に電車に乗り込むと、車内は帰宅する人と夏祭りに向かう人の群れでごった返していた。こういった電車に乗るときは昴をかばう様に立つことにしている。
最近はなるべく一緒に電車に乗るようにしているため被害はないようだが、昴は特定の人物から痴漢を受けていた。昴からの情報で相手がどんな人物なのかは知ることができたが、昴自身が騒ぎを大きくしたくないと言うのでそっとしている。
辺りにそうした相手がいないか警戒をしていたが、電車が揺れ不意に昴の髪が顔に触れるほど密着する。
いつもの香りがして体が熱くなってしまう。昴の身体に慣らされた自分に恥ずかしくなってしまい、早く駅についてほしいと願うしかなかった。
「やっと着いたね……」
電車から降りて一息つく。昴の方を見ると、少し帯がよれている。
「昴くん、少し帯を触ってもいい?」
動画で見て練習した通りに整えなおす。
「はい。もう大丈夫だよ」
「京一さん、ありがとう」
浴衣の崩れを直して気を取り直して神社の方へと並んで歩き始める。
はぐれないように手を握り進んでいくと様々な屋台が並んでいる。
「京一さん、あれ買ってきてもいい?」
昴が指をさしたのはりんご飴だった。
「うん、いいよ。一緒に並ぶ?それとも俺が買ってこようか?」
そう尋ねると、昴は首を振る。
「俺、自分一人で買ってこられるから……京一さんも自分の食べたいもの買ってきて」
「そう?……じゃあ、お互いに食べたいものを買ったらあそこの木の下で集合にしようか。何かあったらすぐに電話してね」
自分も買いに行った方が効率的かと判断して他の屋台を見て回ることにした。
焼きそばとベビーカステラを見つけ、昴と一緒に食べるために並ぶ。少し時間が掛かってしまったが無事に買えた。しかし、ふと2つを見ていて飲み物を買わなければ喉が詰まってしまうのではないかと思った。頑張ればこのまま飲み物を買っていくこともできなくはないが、合流してからの方がよいかと、一度待ち合わせ場所に向かうことにした。
しかし、昴の姿はまだなく渡すことも先に食べていてもらうこともできない。
連絡をした方がいいかと思い電話をかけるがどうやら電源が入っていないようだった。
先ほどのりんご飴の屋台にも行ってみるがそれらしき人は見つけられず焦ってしまう。
もしかすると入れ違いになってしまったのかと思い、待ち合わせ場所に再び戻り辺りを見回してみる。
やはり昴の姿は見つからないが、代わりに目に飛び込んできたのは手を繋ぎ屋台に並んでいる飛鳥と颯馬の姿だった。
何を話しているのかはわからないが、おそらく待ち合わせ場所に昴の姿が見えない理由はこれなのではないかと思った。
見たくない光景なのに、2人から目が離せない自分がいた。
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