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篠突く雨が遣らずの雨になってくれないかと願いながら煙草の煙を喫む。
吐き出す紫煙に紛れて共に出そうになった言葉を飲み込むと、喘ぎすぎて嗄れた喉にグッと詰まった。
「近頃、吸いすぎのように思えますが」
ネクタイを締め直す嘉納章 は、苦みを含ませた声音でそう言って噎せそうになったオレを振り返る。
そんな嘉納にオレ、谷翔希 はことさら大げさに煙を吐いて見せた。
「……ストレスが、酷くて」
つっけんどんに言ってやれば言外の言葉も汲み取ってくれるかとも思ったが、嘉納がそれに気づいた様子はない。
それでも体を気遣ってくれたのかと思いもしたが、
「臭いが移るのと困るので、あまり吸わないで頂けるとありがたい」
そう平坦な声が返ってくる。
吸いすぎを気にしてくれた……と言うわけではない声に、「わかった」と返事をしつつも立て続けに次の煙草を咥える。
嘉納はただ顔をしかめただけでそれ以上は何も言わなかった。
情事痕の残る部屋から嘉納が無言で出ていく。いつも入り口で一度立ち止まって軽く振り返るのは……挨拶のつもりなのかどうなのか。
何回見送ってもオレにはその意図が分からない。
幾度もあいつに組み伏せられても、あいつが何を考えているのかわからない。
ただわかるのは、嘉納がオレの体の中に白濁の液体を残していったと言うことだけだ。
嘉納との関係はもうどれくらいになるのか……二本目の煙草の煙を吸い込みながら指を折って数えようとするも、途中で気力が尽きて膝の上に下した。
「明日、仕事の後にまた」
「わかった」
繰り返す同じ言葉は簡潔で、それ以上の飾りはない。
それは二人の関係そのままのようで、煙が目に沁みたように見せかけて目を押さえるのが精いっぱいだった。
オレ達は同僚ではあったがその関係が仕事以上に交わることはなかった。
あの日、オレが忘れ物をしなければ……
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