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第18話
「まぁ、ね。みんなには内緒だよ。実は俺、別にレギュラーに固執してないんだよね」
「コシツ」
「ああ、執着ね」
「じゃあ、何で篠田とばっか合わせてんスか」
(は?! 岸先輩、僕には一切そんな風に腹割った話をしなかったのに。そんなにソイツが大事ですか?! 八島の代わり呼ばわりされる言われもないのに)
「それは……俺がとるに足らない奴だからっスか。いや、違うな。早いうちに根を上げると思っていたのに、俺が案外夏休みを耐えてしまって——」
「全然ちがッ」
ダァン!! ここで大きな音が鳴る。生身を打ち付けたような音が。
ここを飛び出して、館内に駆けつけて問答無用で岸先輩を守りたい。
だが、できない。
二人きりで喧嘩などされたら、他人は出る幕なしなのだ。
歯軋りで堪える。
「アンタはどうして、心配だけして、応援してくれない。いつも篠田《アイツ》ばかり……」
「え、篠田?」
「っもういいっス。頼む相手を間違えたみたいなんで」
「ちょ、待って!! 俺教えないなんて言ってない!! ねぇ!」
「知ったような口聞いてくれるじゃん。俺が気に掛けるのは当然じゃん。全然乗り気じゃなかった部活に勧誘したの俺なんだから」。岸先輩の言葉に耳を疑った。
「そうっスけど」
「夏休み期間の間だけで、八島は何度倒れたと思ってる! 酷なことさせている原因は俺なんだよ?! もっと俺を嫌っていいし、何なら辞めてちゃっても良かったのに……どうして根性なんか見せるの!!」
「——それ、本気で言ってんスか」
「やっぱり辞めて欲しいんじゃねぇか」暗雲が立ち込めそうなトーンで一人ごちた八島は、岸先輩を残して出入り口に向かっている。
(ヤバッ、見つかる!!)
咄嗟に鞄で顔を隠すくらいしか方法がなかった。
もう見つかるだろう。
「クソッ!! 俺、何のために頑張ってきたんだよ」。
八島の苦渋を飲む姿を初めて見た。視線を下ろせば篠田が蹲み込んで盗み聞きしていることくらい、すぐ視野に入ってくるだろうに。それすらままならないらしい。
(——普通の顔できるのか)
それを契機に、八島は練習にも来なくなった。
顧問も深く追及はしないが、普段の学校生活でもなかなか捕まらないみたいだ。
それもそのはずだろう。同級生に聞いたところ、授業さえまともに出席していないらしかった。
三年が引退して初めての練習試合まで、あと一週間。
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