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第2話

 陽斗の住む世界には、男女の性別の他にもうひとつの性別が存在する。  すべての人間は、性を二種類持って生まれてくるのだ。  男女以外の性別を、人々はバース性と呼んでいる。それは人間を、特殊な構成要素で三つに分類していた。  ひとつは『オメガ』。陽斗が属する種だ。  オメガは人口の0・1パーセントを占め、男も妊娠が可能で、一ヶ月に一度の発情期(ヒート)がくると、その間は強力なフェロモンを周囲にまき散らすという特性がある。大抵のオメガは知力体力共に、平均値よりも劣るという脆弱な種だ。  そしてオメガの対極にあるのが『アルファ』。  人口はオメガと同じ0・1パーセントと比率は同等だが、性質はまったく違う。頭脳や運動能力に秀でた人間が多く、容姿も格別に美しい。身体のつくりもアルファは他の種と異なっていて、特に大きな違いは生殖器の根元に特徴的な瘤があることだった。  残りの大多数の人たちは、目立った特色がないため便宜上『ベータ』という種に区分されている。  バース性のうち、発情期という厄介な体質を持つオメガの陽斗は、そのせいで就職活動にも支障をきたしてしまうのだった。  自宅の最寄り駅に電車が着いて、降車する人々にまざってホームに出る。改札を抜け、駅前にあるスーパーに足を向けながら、家で待っている弟の光斗(みつと)にスマホでメッセージを送った。 『今駅だけど。調子はどう? 何か食べたいものある?』  するとすぐに返事がくる。 『何もいらないよー。絶賛発情中だから』  ハートマークつきの答えがきて、ちょっと笑ってしまった。  苦しい発情期をこんな風に明るくすごすことができるのは、天真爛漫な性格の光斗くらいのものだろう。

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