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第22話

「あ、いや、まだだけど」 「じゃあ、一緒にここで食べないか」 「無理。光斗が待ってるから」 「なら、飲み物を一杯だけでもいいから。つきあってくれないかな。君と少しでもいいから話をしたいんだ」 「……」  せっかく連れてきてくれたんだし、それぐらいならいいかと考える。 「わかった。光斗には連絡を入れとく」 「では僕は、飲み物を作るよ」  高梨がバーカウンターのほうに歩いていったので、陽斗も後をついていった。勧められたスツールに腰かけて光斗にメッセージを送る。 『ごめん少し遅くなる。腹へってる? 何か食べたい?』  するとすぐに返事がきた。 『陽斗が作っといてくれた昼飯、さっき食べたばかりだからお腹すいてない。なんにもいらないよー』  とあったので安心する。 「何がいい? 気になるものがあれば遠慮なく言ってね」  上着を脱いでカウンター内に入った高梨が、ボトルのならぶ棚を背にきいてくる。陽斗はそこそこ飲めるたちなので、ラベルを眺めて考えた。 「じゃあ、そこのウイスキーを」  三十年ものの国産ウイスキーを見つけて、即答で指名した。せっかくだから普段は飲めそうにない高級なものをと、つい欲を出してしまった。だがそれがまずかった。空きっ腹だったと気がついたのはロックを一口飲んだ後で、しかしあまりの美味さに後悔も吹き飛んだ。そして警戒心も同時に緩んでいく。   「弟の光斗君とは、仲がいいんだね」  自分もグラスを傾けながら高梨がたずねてくる。その言い方がちょっと嫉妬してるように聞こえて、陽斗はかるく微笑んだ。

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