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第37話 光斗の災難

◇◇◇  数日後、職場で倉庫整理を手伝っていたら、事務の女子社員から呼ばれた。 「凪野君、あなたに電話かかってるわ。スマホにかけても全然つながらないって。緊急みたいよ」 「え?」  女子社員が近づいてきて、こっそりと教えてくれる。 「何か、警察みたい」 「えっ?」  何事かと事務所に引き返し、急いで受話器を取った。  相手は彼女の言うとおり警官で、光斗が大学近くの駅でトラブルに見舞われてしまったので、迎えにきて欲しいというものだった。 「すいません、早退させてください」  会社に断りを入れてから、駅に向かう。警官の話では、ホームに立っていた光斗が、誰かから背中を押されて線路に落ちそうになってしまったということらしかった。さいわい一緒にいた友人がとっさに助けてくれたので事なきをえたのだが、犯人は逃走、光斗はショックで動けなくなり駅の休憩室で休んでいるという。  駅に着くと駅員に声をかけて、光斗のところに連れていってもらった。  狭い休憩室の簡易ベッドに、弟は横たわっていた。無事な姿を見て思わず駆けよる。 「光斗っ」 「陽斗……」  泣きそうな顔で警官から事情聴取を受けていた光斗が、兄を見て安堵の表情を浮かべた。 「弟は、大丈夫ですか」  ベッドの横に立つ警官にたずねると「怪我はありませんでした」と言われる。 「よかった。なんともなくて。犯人は? 顔は見たのか」 「それが、混んでて全然見えなくて。すぐに逃げられて」 「そいつは、お前を狙って押したのか? 偶然じゃなくて」   「よくわからないけど、偶然あたったんじゃないと思う」

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