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第49話

「どうぞ、凪野様」  以前、ホテルに送ってもらったときに会った運転手が、後部ドアをあけてくれる。 「どうもすいません」  四十代半ばの真面目そうな運転手に挨拶をしてから、後部座席に乗りこんだ。 車は一時間ほど走った後、都内の高級住宅街の中にある瀟洒(しょうしゃ)な洋館の前に到着した。そこは以前、テレビ番組で観た建物だった。 「こちらにどうぞ、凪野様」  車が鉄製の頑丈な正門をくぐり玄関前の車よせにとまると、運転手がまたドアをあけてくれる。陽斗は車からおりて周囲を見渡した。  広い敷地には、レンガ造りの大きな屋敷と、その奥に英国風の庭園が見える。屋敷自体は古いものらしく、レトロな丸いランプのともる玄関は、夕暮れのせいもあり外国映画のワンシーンを思い起こさせた。 「社長はあと三十分ほどでこちらに戻られる予定です。それまではご自由におくつろぎくださいとのことです」  屋敷の中に案内されて、応接室に通された後、運転手が言う。 「私は秘書の鷺沼(さぎぬま)と申します。今後お目にかかる機会が多くなると思いますので、何かお困りのことがあれば、遠慮なくお申しつけください」 「あ、はい、すみません」  少しすると、鷺沼自らお茶を持ってきてくれる。それを恐縮しながら受け取った。秘書が茶をいれてくれたということは、どうやらこの屋敷には鷺沼と自分しかいないようだ。 「では、私は社に戻りますので。失礼いたします」  鷺沼が出ていくと陽斗はひとりになり、手持ちぶさたに立ちあがって部屋の中を見て回った。  高そうな調度品ばかりが並ぶチェストや、窓の外の美しい庭。蔦模様の入った壁紙に、年代物のシャンデリア。インテリアサイトのフォトグラフに出てきそうな風景だ。  しかし灯りの光度が抑えられているせいで、部屋のすみずみは薄暗い。外の宵闇と相まって、美しいがどこか寂寞(せきばく)な印象を受ける。

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