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第48話 屋敷へ

◇◇◇    それでも仕事と割り切れば、一ヶ月後には、自分は自由になる。  高梨は『やるだけやって捨てる』とは言ったけれど、あれはただ強い台詞を使って、取引に緊張感を持たせようと口先だけで言ったという可能性もある。彼のような紳士があまりひどいことをするとも思えない。しかしそれも、陽斗の単なる楽観なのかもしれないが。  高梨の考えていることがよくわからない。向こうはこちらの考えを簡単に読んでしまっているようだけれど。  陽斗は翌日、朝食の席で光斗に『通っている医者の勧めで、発情カウンセリングのグループワークに一ヶ月間泊まりこみで参加することにした』と説明した。  光斗は驚いたが、陽斗がどうしても自分も発情が欲しいからと言うと納得してくれた。その後、家に高梨のもとから派遣されたボディガードが三人と家政婦がひとりやってきた。 「一ヶ月も離れるの、さみしいよ」  玄関先で光斗が抱きついてくる。陽斗は弟の背中を撫でながら優しく言い聞かせた。 「毎日、メッセージを送るから。そうすれば一ヶ月くらいあっという間さ」 「陽斗、無理しないでね」 「光斗も何かあったら連絡くれよな。この人たちは、治療の伝手(つて)で知りあった高梨さんという人が手配してくれたんだ。信頼できる人の紹介だから、安心していいから」 「ん。わかった。……けど、こんなすごい人たち雇って、金銭面は大丈夫?」  心配そうな顔でたずねてくる。 「大丈夫だ。補助金の範囲内でおさまってるよ」 「そか。ならよかったけど。陽斗もいい結果が出るといいね」 「そうだな。俺も頑張るよ」 「……うん」  まだちょっと不安そうな光斗を大学に送り出してから、家の中を片付け、午後五時すぎに自分も当面の荷物をつめたリュックを手にして家を出る。門の外には、高梨がいつも乗っている黒い車が迎えにきていた。

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