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第51話

「ここだよ」  高梨がドアノブをひねってゆっくりと扉をあける。中は十五畳はあろうかと思われる落ち着いた雰囲気の客室だった。  ベッドは真ん中にひとつ。その横に奇妙な形の、木製の肘かけ椅子がある。椅子には医者の診察台のようなベルトや足かけがついていた。これは映画で見たことがある。医者が患者の股間を治療するときに用いるものだ。  椅子の隣にはキャスター付きの小机があり、ノートPCと黒い革製の四角いキャリーケースがおいてあった。キャリーケースは治療器具などを収納するものに似ていた。  陽斗は嫌な予感に胸を震わせた。  これはいったい何なのだろう。こんなものを、何に使うのか。  診療台とキャリーケースから目が離せないでいると、横にきた高梨が耳元で囁いた。 「服を脱いで」 「……え」  見あげると、銀色の瞳が笑っている。 「下だけでいいから」 「な、なんでですか」 「何でもすると言っただろう。僕の好きにさせてくれると」  その顔には、今までの温和さが見られなかった。笑ってはいるが感情が読めない。整いすぎた容姿のせいで、まるでホラー映画の冷酷な殺人犯が、獲物を前に薄く笑っているような表情に思える。 「……」  陽斗は急にここから逃げ出したくなった。 「なっ……な、何を、するん、すか」  ろれつが回らなくなった舌で問いかける。 「君の発情を引き出すんだよ」 「どうやって」 「見ればわかるだろう」  高梨がチラと診察台に目を移す。

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