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第106話

「無理する必要はないよ。薬で発情しても、それは本当の発情じゃない。僕は君に苦しみながらじゃなく、気持ちよくなりながら、いつか発情してくれればいいと思ってるんだ。急がなくても全然いい」 「でも、あと三日で、約束が守れなかったら」 「うん?」 「……高梨さんは、俺のこと、ヤリ捨てるんでしょう?」  言ってしまってから、自分の声があまりにもか細くなっていることに気づいて驚いた。そんなつもりはなかったのに。  この前も、ヤリ捨てられるのが嫌だと叫んだばかりで、また同じ台詞を繰り返す自分のしつこさにも呆れる。  どうやら高梨の『ヤリ捨てる』という言葉は、思っていた以上に陽斗の心の深いところに刺さっていたらしい。  相手の腕の中で落ち着きなく身じろぐと、わずかに目をみはっていた高梨が、なんともいえない困り顔をする。そして、陽斗をきつく抱きしめてきた。  つむじに口づけて、熱いため息をこぼす。 「まったく。この可愛らしい頭は、そんなことを気に病んでいたのか」 「だって、け、契約だし。機能不全オメガは、アルファにとって役立たずだし」 「機能不全オメガだなんて。その言葉は、君自身も傷つけるし、同時に僕も傷つけている」 「……」 「僕は君のことをそんな風に思ったことは一度もない」  そしてそのままソファに押し倒される。 「僕が君の何を一番好きなのか、教えてあげようか」

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