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第112話 発情してはいけない

◇◇◇  手のひらの中の、スマホを見つめる。  画面には、今日の日付が表示されていた。十一月二十日。  契約終了の、一日前だ。  明日、高梨と交わした取引の最終日が訪れる。  それまでに発情しなければ、書面では、陽斗は解放されることになっている。 「――はぁ……」  盛大なため息をついて、画面を見おろした。しかしどれだけ凝視したところで事態が変わるわけではない。  陽斗は目をあげて、自分が今いる部屋を見回した。一ヶ月暮らした客室には、陽斗の私物がそこかしこに散らばっている。  それを沈んだ気持ちで、ひとつずつ集め始めた。ここにきたときに持ってきたディバッグに順につめこんでいく。  高梨は、陽斗にいつまでいてもいいよと言ってくれたけど、家では光斗が待っている。とりあえず契約終了と共に、一度帰宅するつもりだった。  そして、明日の朝には、光斗の番候補である津久井が帰国することになっている。津久井は光斗のために、ホテルのスイートルームを予約したそうだから、明日の夜は多分ふたりですごすことだろう。  陽斗は明日から祖父母の残してくれた家で、光斗を送り出す準備をするつもりだった。米国で暮らす津久井と番になるのだから、光斗もきっと渡米しなければならなくなる。光斗はパスポートも持っていないから、手続きその他でこれから忙しくなる。それを手伝うことで淋しさが紛れればいいなと思いつつ、陽斗は荷物を片づけた。  夕闇せまる窓の外に目を移し、そろそろ夕食の準備もしなくてはと気がつく。最後の晩餐のメニューはもう決まっていた。

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