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第122話

「待って、高梨さん」  陽斗は急いで彼に近よった。 「入ってこないで。外に出てっ」 「え?」  訝しむ彼が、動きをとめる。そしてふと眉をよせた。 「陽斗君?」  高梨は出ていくどころか、陽斗に近づいてきて腕を取った。 「君? フェロモンが出てる?」 「えっ」 「いい匂いだ。どうしたんだい、急に。もしかして発情が?」  陽斗の首筋に顔を埋めてくる。  陽斗は驚いて、そして匂いは自分のものじゃなく、光斗のものだと気がついた。 「ちっ、ちがっ、コレは俺のじゃない」  高梨は勘違いをしている。 「光斗が、発情したんだ。これは弟のフェロモンだよ。だから外に出て。お願いだから、ずっと遠くに、匂いが届かないところにいって」 「え?」  陽斗は身をよじって、高梨から離れようとした。しかしどうしてか、高梨は手をゆるめようとしなかった。 「本当に? ……ああ、たしかに、よく似ているけれど少し違うな。これは、……大輪のカサブランカのような香りだ……」  声がウットリしたものに変わる。陽斗はイヤな予感に背筋を震わせた。

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