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第121話

「まずい」  発情してしまったら、外に連れ出すことはできなくなる。ただでさえ光斗のフェロモンは強力なのに、今は首輪もない。こんな状態では動かせないし、匂いが外にもれたら周囲に住むアルファが反応して騒ぎになってしまう。 「抑制剤は?」 「常備してる。けど、効くかどうか」  そして不運なことに、光斗は抑制剤が効きにくい体質だった。 「一応飲むんだ」 「うん、わかった」  指先をわななかせる弟を手伝って、鞄から抑制剤を取り出す。すぐに飲ませるも、顔色に変化はない。 「この家は、遮香室はないの?」 「わからない」  陽斗はリビングの入り口を振り返った。もうすぐ高梨が帰ってくる。ここで発情した光斗と出会ってしまったら大変だ。 「光斗、いいか、ここにいるんだ。動くんじゃないぞ」 「うん」  呼吸が荒くなり、肩が上下し始めた弟を落ち着かせようと、背中を撫でてから陽斗は立ちあがった。  庭に続く掃き出し窓があいていたので、急いでしめてからリビングを出て玄関へと向かう。長い廊下を早足で歩いていたら、不意に玄関扉があいた。 「やあ、陽斗君。光斗君はきてるかい?」  帰宅した高梨が、微笑みながら家に入ってくる。 

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