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第120話

「何だろう、すごく、気持ち悪い」  手で口を押さえて俯く。 「吐けるか?」 「……無理」 「なら病院にいこう。タクシー呼ぶか?」 「……うん、そうする」 「待ってろ、すぐに連絡するから。高梨さんにもしらせとこう。もう帰ってくるかもだけれど」  スマホを取り出して、タクシー会社を検索する。屋敷から勝手に出てはいけないと高梨に言われていたが、今は緊急事態だ。 「……陽斗」  画面を操作していると、横の光斗が腕を掴んできた。 「どした?」  振り返って、弟を確認しようとしたら、その瞬間、ブワリと周囲の空気が破裂する。  濃厚な香りが、鼻腔を痛いほど突いてきた。 「光斗」  それは発情したオメガのフェロモンだった。 「……陽斗、これ……」  光斗の身体が目に見えて痙攣しだす。 「これ、多分、催淫剤だ」 「――え」 「あいつ、オレに、コレを飲ませようとしてたんだ」  驚愕する陽斗の前で、弟が妖しく変化していく。目が爛々と欲望に輝き、頬が熟れた桃のように染まっていった。

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