120 / 158
第120話
「何だろう、すごく、気持ち悪い」
手で口を押さえて俯く。
「吐けるか?」
「……無理」
「なら病院にいこう。タクシー呼ぶか?」
「……うん、そうする」
「待ってろ、すぐに連絡するから。高梨さんにもしらせとこう。もう帰ってくるかもだけれど」
スマホを取り出して、タクシー会社を検索する。屋敷から勝手に出てはいけないと高梨に言われていたが、今は緊急事態だ。
「……陽斗」
画面を操作していると、横の光斗が腕を掴んできた。
「どした?」
振り返って、弟を確認しようとしたら、その瞬間、ブワリと周囲の空気が破裂する。
濃厚な香りが、鼻腔を痛いほど突いてきた。
「光斗」
それは発情したオメガのフェロモンだった。
「……陽斗、これ……」
光斗の身体が目に見えて痙攣しだす。
「これ、多分、催淫剤だ」
「――え」
「あいつ、オレに、コレを飲ませようとしてたんだ」
驚愕する陽斗の前で、弟が妖しく変化していく。目が爛々と欲望に輝き、頬が熟れた桃のように染まっていった。
ともだちにシェアしよう!