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第124話

 背の高いアルファを外に連れ出そうと、無理矢理に腕を引く。けれどびくともしない。 「高梨さんッ」  声が悲痛なものになる。光斗に目を移せば、弟もまた彼と同じような顔をしていた。恍惚とした、熱に浮かされたような表情だ。  ふたりは互いのフェロモンで惹かれあっている。しかも光斗は、もともと高梨の番候補になっていた相手だ。普通のアルファとオメガよりも強力に求めあっても不思議じゃない。  ――どうしよう、このまま、ふたりが抱きあって、番になってしまったら。  恐怖に全身が冷える。  そして気がついた。  自分が今まで何に怯えていたのかを。  どうして高梨の番になることを躊躇していたのか。なぜ彼を受け入れられなかったのか。彼は発情がなくても陽斗を番にしたいと言ってくれたのにもかかわらず。  それは、こんな事態がくることを、予期していたからだ。  高梨がいつか、フェロモン型のマッチングする相手に出会ってしまったら。その相手が発情して彼を誘惑してきたら。  発情のない自分は太刀打ちできない。 きっと彼は自分を捨てて、その相手のもとへといってしまう。そのときこそ、本当の別れがやってくる。  だから、素直に彼の番になることができなかったのだ。 「イヤだ」  そんなのはイヤだ。 「高梨さん、しっかりしてっ」

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